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第51回 スタジオはいつでもぼくらの故郷

文・谷川賢作

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大友さん、ありがとうございます。私にとって大切な作品になりました 皆さんもぜひご覧ください! (撮影/谷川賢作)

大友さん、ありがとうございます。私にとって大切な作品になりました 皆さんもぜひご覧ください! (撮影/谷川賢作)

こうやってスタジオ内で余裕かましてるふり、できるようになったのもつい最近 (撮影/誰か仲間のミュージシャンの一人)

こうやってスタジオ内で余裕かましてるふり、できるようになったのもつい最近 (撮影/誰か仲間のミュージシャンの一人)

 連載も50回を越えましたが、ほっとくと「ほめちぎ」から「けなまく」(けなしまくるぜ!)になりがちなダークサイドの自分に注意しつつ今回も一筆啓上。

 まずは、大友博さんのコラム(第21回「新生フリートウッド・マックの誕生」参照)に感謝です。この映画『サウンド・シティ』のことは知らなかったのですが、フリートウッド・マックは好きなバンド。大友さんの筆致で、これはおもしろそうと思って見たところ、見事に大当たり! 興奮するわ、涙腺は刺激されまくるわ、えらいことになりました!

 この映画は次々出てくるエピソードの数々すべてがすばらしくて語りたいことはいっぱいあるのだけど、それでもどこが一番「興奮&涙腺ポイント」かというと、スタジオに人(ミュージシャン)がわらわら集まってきてワイワイ言いながら音楽を作り始めると、魔法のようにすごいもの(楽曲)が生まれてくるという、その基本の基。

 MTR(マルチトラックレコーダー。簡単に説明すると個々の演奏を別々のトラックに録音できる機械)と“打ち込み”機材の進化で、ミュージシャンがスタジオに時間差で入れるようになり、一人きりで演奏、録音し、次の人に渡し、その人も一人で作業し、また次の人へ。みたいなリレーするレコーディングも当たり前になり(それどころか、今ではメールで演奏データのやりとりの時代です)自分以外の人間のペースに影響されなくなったのがうれしい、というその気持ちもわからないではないが、それもちょっとつまらないよねえ。我々ミュージシャンが小説家や画家や陶芸家、その他「創作においては一人作業」な方々にうらやましがられるのは、違う個性が寄り集まって作る「アンサンブルの醍醐味」でしょう。映画の現場も然り。 

 ここで得意の脱線話を披露。昔「火曜サスペンス劇場」(通称“火サス”日テレ系の長寿人気番組でしたねえ。懐かしい)の劇伴レコーディングを見学する機会があったのだが、これが鳥肌もの。MTRを使わずに、打ち込み音源と共に、スタジオ内のすべての生演奏を卓でバランスを取りながら「2TRマスターに即完パケ」が“火サス”の音楽録りの原則とのこと。つまり「間違った箇所をそこだけ部分修正できない」のだ。1曲まるまる完璧に演奏して、そのままそれが完成形になる。しかもたとえ自分は間違いなく演奏できても、スタジオ内の他の誰かがミスると全員で最初からやり直しという厳しさ。しかも“火サス”の音楽である。サスペンス感あふれる変拍子も混在するけっこう複雑なリズムの曲を“打ち込み”に合わせて、アコーディオンとギターとサックスのプレイヤーの方々が「うひゃーむんずかしい」「どひぇー弾けねえ」とか悶絶しながらも、類い希な演奏技量を持って、緻密に、しかも歌心も保持しながら着々と仕上げていく。このプロのミュージシャン達の凄さをを目の当たりにして、呆然となりました。目に焼き付いています。脱帽です。礼!

 しかし、なんでそんなことするの?と言われれば、やはり制作コストの削減ということでしょう。TD(トラックダウン。MTRで録音した個別トラックをまとめて2TRの完パケ音源にする作業)には、ことのほか時間がかかるのです。エンジニアさんによっては「私がある程度、整音してまとめますから、それまで作編曲のあなたは一切口はさまないでください」なんていう方もいたりして、その「待ち時間」もしっかりと予算内にあった時代も、今はいずこ。今では、録音後、TDは別の小スタジオは当たり前。どころか、エンジニアさんが持ち帰って自分のプライベートスタジオで仕上げて、それを宅ファイル便で送りあって確認。なんてことが当たり前なのです。

 いや。また批判的にきこえてしまうかもしれませんが、そうではありません。「予算と創作と機材の進化」はいつの時代でも密接に結びついているもの。与えられた枠内でどんなことができるのか、知恵と技術をふりしぼっての実作業こそが我々の経験値を上げていきます。

 なんて、私らしくなくちょっとエラそうなまとめかな? あはは。「いつからこんな大きなこと言えるようになったんだ、君」という声が聞こえてきそうです。はい。昔20代の頃はスタジオ入るたんびに緊張していました。もうビビりまくり。先輩のミュージシャンがいらっしゃるとやたら恐縮し、自分のミスで自分だけ部分修正、先輩はオレの作業待ち、なんてことがあると、見事に「音を置きにいっていました」(ほめちぎ第5回参照)。ああ、恥ずかしい。スタジオが故郷、なんて思えるようになったのはかなり後になってからです。ごめんなさい。ペコリ。はい、私の駄文はともかく、皆様、映画「サウンド・シティ」ぜひぜひご覧ください!

 さて。最後におまけです。というか、前回の写真クイズの答え。種子島宇宙センターのロケット発射を見学する展望所です。なにかわざとトンチンカンな答え(鉄棒で多人数でギネス狙うとか布団をいっぱい干すとこetc.)で受けをねらう方もいらっしゃいましたが、ヒント九州の方角、ですぐに当てられてしまいました。 [次回8/8(月)更新予定]

■映画「サウンドシティ・リアル・トゥー・リール」のサイトはこちら
http://www.sonymusic.co.jp/Music/International/Special/Soundcity/

(更新 2016.7.25 )


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プロフィール

谷川賢作

谷川 賢作(たにかわ・けんさく)作/編曲家 ピアニスト

1960年東京生まれ。ジャズピアノを佐藤允彦に師事。演奏家として、現代詩をうたうバンド「DiVa」、ハーモニカ奏者続木力とのユニット「パリャーソ」に所属。また父である詩人の谷川俊太郎と、朗読と音楽のコンサートを全国各地で開催。80年代半ばより作・編曲の仕事をはじめ、映画「四十七人の刺客」「竜馬の妻とその夫と愛人」、NHK「その時歴史が動いた」テーマ曲等を手がける。88、95、97年に日本アカデミー賞優秀音楽賞受賞。2014年度船橋市文化芸術ホール芸術アドバイザー。音楽を担当した最新映画は「カミハテ商店」「SAYAMAみえない手錠をはずすまで」。最新刊『げんきにでてこい』(カワイ出版)、最新CD『うたがうまれる』 谷川賢作オフィシャルサイトhttp://tanikawakensaku.com/