第22回 ボブ・ディラン《ゴーイング、ゴーイング、ゴーン》~ロビー・ロバートソンのストラトキャスターで引くギター・ソロ |AERA dot. (アエラドット)

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第22回 ボブ・ディラン《ゴーイング、ゴーイング、ゴーン》~ロビー・ロバートソンのストラトキャスターで引くギター・ソロ

文・大友博

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 ザ・バンドのフェアウェル・コンサート『ザ・ラスト・ワルツ』がサンフランシスコで行なわれたのは、1976年11月25日。昨年(2016年)は40周年ということで、ボブ・ディラン、ニール・ヤング、エリック・クラプトン、ジョニ・ミッチェル、ドクター・ジョン、ヴァン・モリスン、リンゴ・スターらがゲスト参加したその記念碑的コンサートを記録した作品のアニヴァーサリー・エディションなども発売されている。そういった動きに刺激され、あらためてザ・バンドを聴き込んだという方も多いだろう。あるいは、若い音楽ファンのなかには、40周年をきっかけにはじめてザ・バンドというグループの存在を知り、その豊かな音楽に深く、深く引き込まれてしまったという方も少なくないのでは。

 僕は、25歳のとき、マーティン・スコセッシが手がけたあの記録映画を観ている。なんでも事前に分厚い撮影台本がつくられていたそうで、記録映画という即物的ないい方が正しいとは思えないが、まあそれはともかく、ホーム・ビデオなどまだまったく定着していなかったあの時代、日劇地下かスバル座あたりに何度も通ったはず。その後も、いわゆる二番館や名画座にかかるたび、足を運んできた。昨年秋には、仲間に声をかけ、「勝手に40周年」ライヴをやったりもした。

 そのような者として、個人的にとても嬉しく受け止めたのが、やはり40周年にタイミングをあわせて発表されたロビー・ロバートソンの著書『テスティモウニ』。メイン・ソングライター、プロデューサーとして、つまり文字どおりの頭脳的存在としてザ・バンドの伝説を築き上げた彼が(そのように呼ばれることは好きではないみたいだが)、行間から歌が聞こえてくるような筆致で、カナダのトロントで過ごした少年時代から『ザ・ラスト・ワルツ』までの33年間を描いた約500頁の大著だ。

 ギターに関する記述も多く、なかでも、十代なかばのころ、アルバイトなどで貯めた金でようやく手にしたストラトキャスターをオーディションでアメリカ南部に行く旅費のため、泣くなく手放してしまったという逸話は感動的だった。その後のホウクス、ボブ・ディランとのツアー、ザ・バンドの初期を通じて彼はテレキャスターを弾いているのだが、73年には、ふたたびストラトキャスターを弾くようになっている。「旧友との再会」といったところか。

 ただし、このとき彼は、指に触れるのがいやだという理由でセンター・ピックアップをブリッジ側に動かし、リアPUと並べてしまうというなんとも画期的な改造を行なっている。理科系のことはよくわからないが、そのPU配列から生まれる斬新なトーンと、振幅の大きい大胆なアーミング、そして従来からのトレードマークでもあったハーモニクスを組みあわせた独特のサウンドが、ザ・バンド後期の作品やライヴを支えていくこととなったのだった。もちろん『ザ・ラスト・ワルツ』でも。

 そのようにして手にしたストラトキャスターの音をはじめて公式な形で生かしたのが、73年秋にボブ・ディランがザ・バンドを迎えて録音した『プラネット・ウェイヴス』収録の《ゴーイング、ゴーイング、ゴーン》。冒頭の、ディランのアコースティック・ギターとロビーのストラトキャスターの絡みから生み出される緊張感だけで、それこそ「いってしまった」ものだ。よく計算された短いソロも素晴らしい。

 ザ・バンドの実質的なファイナル・アルバム『ノーザン・ライツ、サザン・クロス/南十字星』は、ディランとの大規模なツアーを終えたあと、75年の春から夏にかけて録音された。ここでリック・ダンコのために書いた《イット・メイクス・ノー・ディファレンス》での長いソロは、改造ストラトキャスターと完成させたロビーだけの音の終着点とも呼べるもの。その完璧なソロが結果的にザ・バンド崩壊の序曲となってしまったことは、残念ではあったが、避けられない流れだったのかもしれない。[次回8/2(水)更新予定]


(更新 2017.7.26 )


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プロフィール

大友 博 (おおともひろし)

1953年東京都生まれ。早大卒。音楽ライター。会社員、雑誌編集者をへて84年からフリー。米英のロック、ブルース音楽を中心に執筆。並行して洋楽関連番組の構成も担当。ニール・ヤングには『グリーンデイル』映画版完成後、LAでインタビューしている。著書に、『エリック・クラプトン』(光文社新書)、『この50枚から始めるロック入門』(西田浩ほかとの共編著、中公新書ラクレ)など。

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