彼らの知名度と評価を一気に高めることとなったこのアルバム、当初はスイスのモントルーにあるカジノ内のライヴ・ハウスに移動式の録音機器を持ち込んで制作されることになっていた。しかし録音開始前夜、その会場は、フランク・ザッパのコンサート中に発生した火災で消失。結果的に、彼らは別の場所を探さなければならなってしまった。《スモーク・オン・ザ・ウォーター》は、タイトルも歌詞も、その事件をほぼそのままに描いたもの。曲づくりにもあまり時間がかけられていなかったはずだが、ギタリストのリッチー・ブラックモアはそこで、少し前から愛器となったストラトキャスターで、基本的には4音だけのきわめてシンプルなものでありながら、多くの人たちの心をとらえることとなる歴史的な名リフを残していた。

 イントロは、5弦と4弦の5フレットからスタートする。つまり1度よりも5度のほうが低くなる重ね方。そして、そのままのフォーマットでシンブルなリフが弾かれていき、それが、《クロスローズ》の回でも触れたことだが、不思議な感触を生み出している(試しに普通のパワーコードのように5度が上になるように弾いてみると、まったく違う雰囲気になってしまうはずだ)。これはブラックモア本人から聞いたことなのだが、あのとき彼は、少なからずその《クロスローズ》を意識していたらしい。[次回4/26(水)更新予定]

著者プロフィールを見る
大友博

大友博

大友博(おおともひろし)1953年東京都生まれ。早大卒。音楽ライター。会社員、雑誌編集者をへて84年からフリー。米英のロック、ブルース音楽を中心に執筆。並行して洋楽関連番組の構成も担当。ニール・ヤングには『グリーンデイル』映画版完成後、LAでインタビューしている。著書に、『エリック・クラプトン』(光文社新書)、『この50枚から始めるロック入門』(西田浩ほかとの共編著、中公新書ラクレ)など。dot.内の「Music Street」で現在「ディラン名盤20選」を連載中

大友博の記事一覧はこちら