第75回 『ストーン・フリー:ア・トリビュート・トゥ・ジミ・ヘンドリックス』『ア・トリビュート・トゥ・カーティス・メイフィールド』エリック・クラプトン他

大友博
『A TRIBUTE TO CURTIS MAYFIELD』VARIOUS ARTISTS
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『A TRIBUTE TO CURTIS MAYFIELD』VARIO...

 おそらく、1980年代後半にCDフォーマットが主流になってから定着した傾向だと思うのだが、ポピュラー音楽の世界ではこれまでに、さまざまな形態のトリビュート・アルバムが制作されてきた。「トリビュート」は「感謝や称賛の気持ちを伝えること」を意味する名詞であり、日本では「捧げる」という言葉が使われることが多いようだ。たとえば、本コラムですでに紹介したものだが、エリック・クラプトンが信頼する仲間たちに声をかけてJ.J.ケイルのためにつくり上げたアルバムには『J.J.ケイルに捧ぐ』という邦題がつくられている。

 一般的なトリビュート・アルバムは、大きな仕事を成し遂げた人の代表曲を複数のアーティストがそれぞれのスタンスでカヴァーするというもの。捧げられる側は、亡くなっている場合が少なくない。アルバムそのものを対象にしたトリビュート盤、あるジャンルや地域を対象にしたトリビュート盤というものもある。

 クラプトンは、1990年代の半ば、注目すべき2枚のトリビュート盤に参加していた。『アンプラクド』の爆発的ヒットによる状況の変化を受け、初のブルース・アルバム『フロム・ザ・クレイドル』から、さらに次のステップ(具体的には『ピルグリム』)に向かおうとしていた時期のことだ。

 一つは、ジミ・ヘンドリックスに捧げられた『ストーン・フリー』。生誕50周年の時期に制作され、93年秋に発表されたこのアルバムには、ロックやブルースだけでなく、ヒップホップやジャズ、クラシックのアーティストも参加していて、またその年齢層も幅広く、「トリビュート盤はかくあるべき」といった内容の仕上がりになっている。

 ここでクラプトンが任されたのは、タイトル・トラックともなった《ストーン・フリー》。ファースト・シングル《ヘイ・ジョー》のカップリング曲として66年12月に発表された曲で、ヘンドリックスというアーティストの存在を世に知らしめた最初のオリジナル曲といっていいだろう。クリームのギタリストとして頂点にあったクラプトンに衝撃を与えた曲でもあったわけだ。

 プロデュースは、ナイル・ロジャース。シックのメンバーも参加していて、彼らの硬質なリズムに支えられ、きわめてストレートなトリビュート作品となっている。

 もう一つは、翌94年発表の『ア・トリビュート・トゥ・カーティス・メイフィールド』。インプレッションズの中心メンバーとして《ピープル・ゲット・レディ》や《ジプシー・ウーマン》などの名曲を残した、偉大なソウル系シンガー・ソングライターに捧げられたアルバムだ。彼はまた、ヘンドリックスにも直接的な影響を与えた、優れたギタリストでもあった。

 曲は、インプレッションズ時代、1964年のヒット曲《ユー・マスト・ビリーヴ・ミー》。これもストレートな仕上がりのカヴァーとなっているが、興味深いのは、ここでもナイル・ロジャースが全面的に協力していること。明確な形で実を結ぶことはなかったものの、『フロム・ザ・クレイドル』の次のステップに向けて、クラプトンの頭のなかには、彼と組むプランもあったのかもしれない。

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