第68回 『フォーエヴァー・マン』エリック・クラプトン |AERA dot. (アエラドット)

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第68回 『フォーエヴァー・マン』エリック・クラプトン

文・大友博

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 エリック・クラプトンが生まれたのは、第二次世界大戦終結の年、1945年の3月30日(ニール・ヤング、ヴァン・モリスン、ローウェル・ジョージ、ピート・タウンゼントなど、同年生まれのアーティストはけっこう多い)。つまり、今年2015年の春、彼は70回目の誕生日を迎えている。《古来、稀なり》の古希だ。本格的なツアーからの《引退表明》は、もちろん、そういった年齢の自覚と無関係ではないだろう。

 5月にはマディソン・スクエア・ガーデンとロイヤル・アルバート・ホールでアニヴァーサリー・コンサートが行なわれていて、またその直前には、ワーナー系リブリーズ・レコードから記念アルバムも発売されていた。『フォーエヴァー・マン』だ。

 最近の傾向ということなのか、いくつかの発売フォーマットが用意されているのだが、基本はCD3枚組で、ディスク1がヒット曲を中心にしたスタジオ録音テイクによるベスト集、ディスク2がライヴ・テイク集、ディスク3がブルースに的を絞ったもの、という構成になっている。総尺、約225分。

 ライノのスタッフとしてたくさんのアンソロジーものに関わってきたスティーヴ・ウーラードがコンピレーションのプロデュースを任されていて、コンセプトや選曲、装丁などに関して、クラプトン自身はあまり口を出さなかったものと思われる。たとえば、たしかに『フォーエヴァー・マン』はいろいろなことを想像させるいいタイトルではあるが、これまでにも何度か書いてきたとおり、同タイトルの曲は、80年代に彼が味わった屈辱や苦悩を象徴するものでもあるのだ。ひょっとすると、いかもクラプトンらしい、自虐的ユーモアなのかもしれないが。

 カバーされているのは、80年代初頭にダック・レコードを設立し、ワーナーにディストリビューションを委ねるようになってからの30年。ただし、2013年にブッシュブランチ・レコードが本格始動してからの活動もカバーされていて、ディスク1の1曲目は、それ以降の作品ということになる『オールド・ソック』収録の《ゴッタ・ゲット・オーヴァー》。そこから一気に、83年発表『マネー・アンド・シガレッツ』収録の《ロックンロール・ハート》に戻り、長い時間の流れを実感させてくれる。ほかには、《ティアーズ・イン・ヘヴン》、《フォーエヴァー・マン》、《プリテンディング》、《チェンジ・ザ・ワールド》、B.B.キングとの《ライディング・ウィズ・ザ・キング》など。J.J.ケイル追悼アルバムからは《コール・ミー・ザ・ブリーズ》がピックアップされている。

 ディスク2のテーマ、ライヴ/コンサートは、クラプトンが一貫してその活動の中心に据えてきたものだ。極端にいえば彼は、自分自身が楽しむことを第一の条件に、優秀なミュージシャンたちとバンドを組んでステージに臨み、そこからエネルギーやインスピレーションを得てきた。そういった想いや意図を深い部分で受け止めながら、ここでは、《レイラ》、《バッジ》、《ワンダフル・トゥナイト》など、ダック設立以前の作品を中心にした選曲が行なわれている。

 エリック・クラプトンは、アメリカ南部で生まれたブルースという音楽の存在を十代半ばで知り、深く引き込まれた。そして、イギリス人としてそのミステリアスな音楽を理解し、極め、自身の音楽へと昇華させてきた。半世紀以上に及ぶ彼の創作活動は、そういった努力の集大成といえるだろう。

 ディスク3のテーマは、そのブルース。94年発表のブルース・アルバム『フロム・ザ・クレイドル』、2004年発表のロバート・ジョンソン作品集『ミー&Mr.ジョンソン』と『セッションズ・フォー・ロバートJ』などから19曲が選ばれている。

 とりわけディスク1に関して、選曲に若干の不満があるが、総じて、よく練られたコンピレーションだと思う。若い音楽ファンへのクラプトン入門編としてもお薦めしたい。[次回10/7(水)更新予定]


(更新 2015.9.30 )


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プロフィール

大友 博(おおとも・ひろし)

 1953年東京都生まれ。早大卒。音楽ライター。会社員、雑誌編集者をへて84年からフリー。米英のロック、ブルース音楽を中心に執筆。並行して洋楽関連番組の構成も担当。ニール・ヤングには『グリーンデイル』映画版完成後、LAでインタビューしている。著書に、『エリック・クラプトン』(光文社新書)、『この50枚から始めるロック入門』(西田浩ほかとの共編著、中公新書ラクレ)など。

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