第65回 『オールド・ソック』エリック・クラプトン |AERA dot. (アエラドット)

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第65回 『オールド・ソック』エリック・クラプトン

文・大友博

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 2011年の夏、ロンドンでインタビューしたとき、クラプトンは、『クラプトン』につづくスタジオ録音作品の方向性について、「カントリーか、カリビアン」といった意味のことを語っていた。その後、彼は、80年代以来のダック・レコード制作/発売元ワーナーというシステムをいったん解消。新たに立ち上げたブッシュブランチ・レコードを拠点に創作を行い、インディーズ系のサーフドッグに発売を委ねることを決めた(サーフドッグの契約などの関係で、結果的にはユニバーサル・グループからのリリースとなっている)。ちなみに、ブッシュブランチは、個人事務所の名前として以前から使われてきたもの。より自由なスタンスでの創作を意図しての再出発でもあったのだろう。

 そのブッシュブランチ・レコードからの第一弾が、2013年春に発表された『オールド・ソック』。サイモン・クライミーとドイル・ブラムホールIIとの共同プロデュース態勢で臨み、スティーヴ・ウィンウッドやポール・マッカートニー、J.J.ケイル、タジ・マハール、チャカ・カーンらもゲストに迎えて仕上げたこのアルバムは、たしかにカントリーとカリブ海系の、どちらの要素も満たすものとなっていた。前者に関していえば、ペダル・スティールの名手グレッグ・リースが全編で大きくフィーチュアされているし、いくつかの曲ではマンドリンが効果的に生かされている。後者に関しては、レゲエへの取り組み、細かいリズムの処理などがあげられるだろう。いわゆる自撮りだと思われるジャケット写真は、「好きなようにやるだけ」と語りかけているようだ。

 選曲は、『クラプトン』で明確に打ち出した「メンタル・ジュークボックス」がさらに重要なキーワードとなっていて、カナダ人カントリー・シンガー、ハンク・スノウの《空しき人生/BORN TO LOOSE》、オスカー・ハマースタインの《丘に住む人/THE FOLKS WHO LIVE ON THE HILL》、エラ・フィッツジェラルドらが歌った《オール・オブ・ミー》、レッド・ベリーの《グッドナイト・アイリーン》、ガーシュウインの《わが恋はここに/OUR LOVE IS HERE TO STAY》などが取り上げられている。ほかには、J.J.ケイルの《エンジェル》、ピーター・トッシュの《ティル・ユア・ウェル・ランズ・ドライ》、ゲイリー・ムーアの「スティル・ガット・ザ・ブルース」など。2つの新曲はブラムホールが書いたもので、クラプトン自身の曲はまったく収められていない。このあたりにも、徹底している。

《スティル・ガット・ザ・ブルース》は、2011年にムーアが亡くなった直後から、しばしばライヴで聞かせてきたもの。『クラプトン』収録《枯葉》の続編ともいえるようなアレンジで、あらためて哀悼の意を表明している。[次回9/9(水)更新予定]


(更新 2015.9. 2 )


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プロフィール

大友 博(おおとも・ひろし)

 1953年東京都生まれ。早大卒。音楽ライター。会社員、雑誌編集者をへて84年からフリー。米英のロック、ブルース音楽を中心に執筆。並行して洋楽関連番組の構成も担当。ニール・ヤングには『グリーンデイル』映画版完成後、LAでインタビューしている。著書に、『エリック・クラプトン』(光文社新書)、『この50枚から始めるロック入門』(西田浩ほかとの共編著、中公新書ラクレ)など。

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