第61回 『ライヴ・フロム・マディソン・スクエア・ガーデン』スティーヴ・ウィンウッド |AERA dot. (アエラドット)

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第61回 『ライヴ・フロム・マディソン・スクエア・ガーデン』スティーヴ・ウィンウッド

文・大友博

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 家族に捧げるアルバム『バック・ホーム』をようやく仕上げ、長年の夢でもあったJ.J.ケイルとの共演作『ザ・ロード・トゥ・エスコンディード』を理想的な形で完成させたあと、クラプトンは、2006年のワールド・ツアーに向けて動きはじめた。前回のコラムでも書いたが、ギターは、クラプトン、ドイル・ブラムホールⅡ、デレク・トラックスとのトリプル編成。あらためて紹介しておくと、ドイルはジミ・ヘンドリックスやスティーヴィー・レイ・ヴォーンの流れを汲む男。デレクは、運命的にドゥエイン・オールマンとつながる男。もちろん、彼らは単なるクローンやコピーではないのだが、これもまた、一つの大きな夢、やり残したプロジェクトの実現と言えるだろう。

 彼ら3人をスティーヴ・ジョーダン、ウィリー・ウィークス、クリス・ステイントンらが支えるという強力なラインナップで臨んだツアーは、年末の日本公演でピークを迎えた。たしか4回観たはずだが、日を追うごとに『レイラ』収録曲の比重と、デレクやドイルにソロを任せる時間が増していった。バックに徹しているときのクラプトンの嬉しそうな表情は、今も記憶に残っている。

 その勢いのまま、2007年夏、第2回クロスローズ・ギター・フェスティヴァルを開催した彼は、そこにロビー・ロバートソンとスティーヴ・ウィンウッドを招いている。とりわけウィンウッドとの共演から強い手応えを感じたクラプトンは、翌年2月、ニューヨークのマディソン・スクエア・ガーデンで彼と3回のコンサートを行ない(バックはウィークス、ステイントン、英国人セッション・ドラマー、イアン・トーマス)、そこでライヴ盤を残した。09年春発表の『ライヴ・フロム・マディソン・スクエア・ガーデン』だ。同タイトル、ほぼ同内容のDVDも制作され、映画版の特別公開も行なわれている。

 短命に終わったブラインド・フェイスがこのプロジェクトの重要なキーワードであったことは否定しようのない事実なのだが、二人は、ノスタルジックな行為に終わらせないことにこだわった。そのために彼らは、お互いのレパートリーのなかからライヴでやってみたいと思う曲をあげ、プログラムを固めていったそうだ。クラプトンの《フォーエヴァー・マン》、トラフィックの《ノー・フェイス、ノー・ネイム、ノー・ナンバー》といったやや意外な選曲は、その結果として引き出されたものなのだろう。

 ギタリストとしてのウィンウッドに焦点を当てることも、クラプトンはこのプロジェクトの重要なポイントだと考えていた。オープニングに据えられた《ハッド・トゥ・クライ・トゥデイ》と終盤の《ディア・ミスター・ファンタスィ》での激しいギター・バトルなどからその想いが伝わってくるはずだ。

 二人の出会いのきっかけとなった《ジョージア・オン・マインド》、J.J.ケイルの《アフター・ミッドナイト》と《コケイン》、オーティス・ラッシュの《ダブル・トラブル》、ブラインド・フェイス時代の名曲《キャント・ファインド・マイ・ウェイ・ホーム》などに加えて、若いころの二人がそれぞれに深く関わったジミ・ヘンドリックスとの思い出とつながる曲が、《ゼム・チェンジズ》、《リトル・ウィング》、《ヴードゥー・チャイル》と、3曲も収められている。とりわけ16分以上に及ぶブルース・ジャム《ヴードゥー~》が素晴らしい。クラプトンのギターには、月並みな表現だが、鬼気迫るものがある。

《ゼム・チェンジズ》の作者、バディ・マイルスは当時、病床にあった。おそらくニューヨーク公演初日のことだと思うのだが、彼は、たまたまマディソン・スクエア・ガーデンにいた友人から携帯電話で二人が演奏する自分の曲を聞かされたという。優れたドラマーでもあったバディが60歳の若さで亡くなったのは、その直後のことだった。[次回8/5(水)更新予定]


(更新 2015.7.29 )


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プロフィール

大友 博(おおとも・ひろし)

 1953年東京都生まれ。早大卒。音楽ライター。会社員、雑誌編集者をへて84年からフリー。米英のロック、ブルース音楽を中心に執筆。並行して洋楽関連番組の構成も担当。ニール・ヤングには『グリーンデイル』映画版完成後、LAでインタビューしている。著書に、『エリック・クラプトン』(光文社新書)、『この50枚から始めるロック入門』(西田浩ほかとの共編著、中公新書ラクレ)など。

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