『ヘイガーズ・ソング/チャールス・ロイド&ジェイソン・モラン』 |AERA dot. (アエラドット)

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『ヘイガーズ・ソング/チャールス・ロイド&ジェイソン・モラン』

文・杉田宏樹

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二人の心が響き合う魂の共演
Hagar’s Song / Charles Lloyd & Jason Moran (ECM)

 近年、ニュー・クァルテットの『ラボ・デ・ヌーベ』『ミラー』、グリーク・プロジェクト作『アテネ・コンサート』をリリースしたチャールス・ロイド。ぼくは 2011年のノルウェー<コングスベルク・ジャズ・フェスティヴァル>でクァルテットのステージも観ていて、幸いにもアルバムとライヴの両面でロイドをフォローしてきた。

 ロイドは自己のクァルテットを率い、1月に5年ぶりの来日公演を実現。前回はベーシストが不参加だったので、今回は日本のファン待望のフル・メンバーによるステージとなった。ビーチ・ボーイズの「ゴッド・オンリー・ノウズ」で静かに幕を開けると、その後もロイドのマイ・ペースでステージが進行。独特な音楽世界が会場内にじんわりと広がっていったのである。

 本作は来日メンバーでもあったピアニスト、ジェイソン・モランがパートナーを務めたデュオ・アルバムだ。ロイドの半世紀を超えるレコーディング・キャリアにおいて、デュオ作はビリー・ヒギンズとの2枚組『ウィッチ・ウェイ・イズ・イースト』(2004)が唯一だった(79年の『ビッグ・サー・タペストリー』はハーピストがゲストに入った作品、と見るべきだろう)。その意味でモランはロイドにとって、現在のクァルテットの一員にとどまらない存在であることが明らかだ。モランは10年前から“バンドワゴン”を率いて活動をしており、名門ブルーノートでコンスタントにリーダー作を制作。現代ピアニストの重要な才人の1人に位置づけられている。

 ロイドのバンド・キャリアは優れたピアニストを起用し続けてきた歴史でもある。若きキース・ジャレットの出世期となり、音楽的・商業的にも大きな成功を収めた60年代。ミシェル・ペトルチアーニとの出会いによって、表舞台へと返り咲いた80年代。ECMのレコーディング・アーティストになった90年代以降は、ボボ・ステンソン、ブラッド・メルドー、ジェリ・アレンと、すでに名声を確立していた実力者が脇を固めた。

 本作の前半はスタンダード・バラードが中心。ビリー・ストレイホーン曲#1、ガーシュウィン曲#3、ジョン・コルトレーンのバラード・アーティストリーが重なる#6と、来日公演がそうだったように、ロイドの流儀をよく理解したモランが良好なパートナーシップを聴かせる。後半の柱となるのが5章からなる自作組曲で、10歳の時に南ミシシッピ州の自宅から連れ去られて、テネシー州の奴隷主に売られたロイドの曾々祖母に、ゆったりとしたテンポで哀悼の意を捧げている。ラストの#14は前述の日本公演でのレパートリー。デューク・エリントン曲#2やアール・ハインズ曲#12のオールド・テイストも盛り込んだ。2人の心と心の交流から生まれた魂の共演アルバムである。


【収録曲一覧】
1. Pretty Girl
2. Mood Indigo
3. Bess, You Is My Woman Now
4. All About Ronnie
5. Pictogram
6. You’ve Changed
7. Hagar Suite I.Journey Up River
8. Hagar Suite II.Dreams Of White Bluff
9. Hagar Suite III.Alone
10. Hagar Suite IV.Bolivar Bues
11. Hagar Suite V.Hagar’s Lullaby
12. Rosetta
13. I Shall Be Released
14. God Only Knows

チャールス・ロイド:Charles Lloyd(ts,as,fl)
ジェイソン・モラン:Jason Moran(p,tambourine)
(allmusic.comへリンクします)
2012年4月、米サンタバーバラ録音


(更新 2013/2/28 )


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