アイム・オールド・ファッションド『ブルー・トレイン/ジョン・コルトレーン』 |AERA dot. (アエラドット)

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アイム・オールド・ファッションド『ブルー・トレイン/ジョン・コルトレーン』

文・貴堂行雄

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 普通、理容室の内装は10年、早ければ7~8年で寿命がくる。JimmyJazzは、24年間一度も改装せずに、ここまでもたせてきたわけだが、最初の工事のときは、完成が遅れに遅れ、新規オープンのチラシを入れるにも開店日確定の目処がたたず、ずいぶんイライラさせられた。

 家を建てたことがある人なら、わかると思うけれど、内装ができあがっていく過程を見るのは、ものすごく消耗するものだ。大工さんがちゃんと思ったとおりにやってくれるのか、おかしなことになってないか、毎日毎日進行状況をチェックするのは、楽しみ半分、不安が半分で、夜ふとんに入る頃には、昼間たいした仕事もしてないのに、もうクタクタに疲れている。そんな日々が何日も続くのだ。

 当店の壁はコンクリート、というか、左官屋さんがセメントを塗って仕上げた。それも色ムラや擦れた感じを残して、わざわざ下手くそに塗ってもらった。ギターの名手ジョン・マクラフリンに、わざわざ下手くそに弾けと命じたマイルス・デイヴィスみたいなものである。

 天井は暗く、作業場は明るく。フランシス・ウルフが撮った写真みたいに、彫りの深い陰影を出したいと思ったので、天井は貼らずに、そのまま濃いグレーのペンキを吹き付けた。

 まだらなセメントの壁に、グレーの天井。作業用に仮設置された蛍光灯の薄明かりに照らされた店内は、なんとも汚らしく、殺風景だ。ここまでの状況を見たわたしは、ああ、この店は失敗だ!もうダメだ!と落胆した。

 しかし、その後チェッカーフラッグのような市松模様の床を貼り、エレガントなアールのついた鏡が運び込まれて、カッチリとした印象の建具が入ると、だんだん見られる状態になってきて、ホッと胸を撫で下ろしたものだ。

 それにしても、いつになったら開店できるのかとブーブー文句を言ってると、

「これから一生やらなきゃならんのに、何もそんなに急がなくてもいいじゃないか」

 店舗デザイナーはそう言って笑った。言われてみれば、そうかもしれないなと、妙に納得したのを憶えている。

 吹き抜けになった客待ちスペースの壁には、そのうちジャズメンのポスターでも飾ろうと思って、スポット照明も用意してもらったが、いざパネルを掛けようと釘を打つにも、コンクリートの硬い壁だ。高さが4メートルもあるから脚立に上って電気ドリルで穴を開けないといけない。それに、広さもある。一枚や二枚のポスターで埋まるものではない。

 バリカンなら得意だが、電気ドリルはちとこわい。結局、営業開始から2年ほどは、何もない壁をスポットライトが照らしていた。

 ある日、講談社から出たばかりの「JAZZリクエスト・ノート」(寺島靖国著)をパラパラ見てると、表紙に、吉祥寺のジャズ喫茶“メグ”の店内写真が使われていて、壁にレコードがたくさん飾ってあった。そうだ、こんなふうにレコードを飾ろう。これならレコードを入れ替えれば飽きがこないだろうと思いたち、即店舗デザイナーにレコードディスプレイ用の棚の作成を頼んだ。

 デザイナーは、やって来て、寸法を測り、「JAZZリクエスト・ノート」の表紙だけをひっぺがして持って行った。2週間ほどで棚が取り付けられ、JimmyJazzの内装は、一応の完成となったが、「JAZZリクエスト・ノート」の表紙は返ってこなかった。

 よく、「全然古くならないですね」と、褒めてもらえるJimmyJazzの内装、汚れても目立たないまだらな壁と、入れ替え可能なレコード棚、時代を超えた名演奏が、いつまでも古く見えない店の秘密なのだった。


【収録曲一覧】
1. Blue Train
2. Moment's Notice
3. Locomotion
4. I'm Old Fashioned
5. Lazy Bird
6. Blue Train [Alternate Take]
7. Lazy Bird [Alternate Take]

John Coltrane (ts),Lee Morgan (tp),Curtis Fuller (tb),Kenny Drew (p),Paul Chambers (b),Philly Joe Jones (ds)
[Bluenote] 15.Sep.1957 Engineer:Van Gelder


(更新 2013/2/14 )


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プロフィール

貴堂行雄

 1988年、大阪市内で“ジャズの聴ける理容室”「JimmyJazz」を開業。オーディオ雑誌にコラム執筆。“日本一オトの良い理容室”を目指すも、まるで良いオトが出ず悪戦苦闘の毎日

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