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卓球女子団体が準決勝へ 伊藤美誠より中国が警戒するキーパーソン 福原愛と仲良し中国人選手欠場も
卓球女子団体が準決勝へ 伊藤美誠より中国が警戒するキーパーソン 福原愛と仲良し中国人選手欠場も
台湾戦に勝利し、手を振る(左から)平野美宇、石川佳純、伊藤美誠(C)朝日新聞社 台湾戦で得点を奪いガッツポーズ平野美宇(C)朝日新聞社  東京五輪卓球競技の女子団体戦準々決勝が8月2日、行われ日本チーム(伊藤美誠、石川佳純、平野美宇)は第5シードの台湾代表と対戦し、3-0と連夜のストレート勝ちで準決勝進出を果たした。  ダブルスとして日本の先陣を切った石川と平野ペアは台湾の鄭・陳ペアと対戦。6-6から4ポイント連取し11-8で先手を取ると、第2ゲーム、第3ゲームも終始リードを保ち、相手を寄せ付けず、ゲームカウント3-0で快勝を収めた。  続くエース対決の第2試合は、伊藤が序盤から鄭怡静を圧倒。2-2からの9連続ポイントで第1ゲームを取ると、第2ゲームは逆転勝利し、第3ゲームも終始主導権を握り撃破した。  平野が陳と激突した第3試合は、第1ゲーム、第2ゲームは拮抗した試合展開になったが、第3ゲームは開始から7連続ポイントを奪い11-4、第4ゲームも11-4と圧倒し、ゲームカウント3-1で準決勝へと導いた。  ベスト4入りを決めた日本女子チームは3日に行なわれる準決勝では、決勝進出をかけて香港代表と激突する。  中国の壁は高い。だが、勝てる可能性はある。カギを握るのは平野だ。中国メディアに「ハリケーン・ヒラノ」と命名されたのが17年4月のアジア選手権だった。同大会の準々決勝で当時世界ランク1位の丁寧に2ゲームを先行されながら逆転でフルゲームの末に破り、準決勝では2位の朱雨玲を下して決勝に進出、決勝戦でも「世界最強」の呼び声高い陳夢に、3-0のストレートで勝利を飾り、日本選手で21年ぶりの優勝を飾った。  「中国人選手を次々と倒していく卓球は衝撃でした。平野の強打とスピードで圧倒する攻撃的なスタイルに、相手が手を焼いていた。近年は中国が徹底的に研究し、右肩の故障もあり国際大会で目立った成績を残していませんが、石川、伊藤と比較しても最も爆発力があるのが平野です。勢いに乗ったら手を付けられない。中国も警戒していると思います」(スポーツ紙記者)  その中で飛び込んできたニュースが、中国女子団体のメンバー入れ替えの一報だった。劉詩●(ブン)から王曼昱に交代させることが発表された。卓球混合ダブルスで世界ランク2位の水谷隼、伊藤美誠ペアがフルゲームの死闘の末に破った相手が、中国ペアの許昕、劉だった。劉は試合後の記者会見の場で涙を流し、「皆さんに申し訳ない」と何度も謝罪。ショックを隠し切れない表情を浮かべていた。  かつて世界ランキング1位に輝き、16年リオデジャネイロ五輪の女子団体で金メダルを獲得。世界選手権、ワールドカップでシングルス、団体含めて17個の金メダルを獲得した実力者だ。東京五輪の混合ダブルスでも金メダルの大本命だっただけに、中国メディアで「屈辱の1日」と報じられた。  今回の入れ替えは右ひじの故障で出場を断念した可能性が高い。日本のSNS、ネット上では激励のメッセージが相次いだ。 「劉選手を初めて観たのは2009年に横浜アリーナで開催された世界卓球選手権。当時はまだ18歳の、あどけなさが残る可愛い美少女だったが、その後、長年にわたって世界女子卓球界の金メダルコレクターとして君臨してきた。中国のみならず、日本にも彼女のファンは多い。それだけに、もう観られないのは残念だが、故障とあっては仕方がない。是非、また日本のファンにも元気な姿を見せて欲しい」 「クールだけど芯の強さが見える佇まいが好きです。東京五輪では思うような成績を残せなかっただろうけど、これからも頑張ってほしい」  卓球を取材しているテレビ関係者は「劉は福原愛さんと仲が良いことで知られていました。彼女の欠場は残念ですが、中国は選手層が厚い。勝つのは至難の業ですが、日本も史上最強の布陣です。番狂わせを起こしてほしいですね」と期待を込める。  混合ダブルスに続き、歴史的快挙は生まれるか。(牧忠則)
ピックアップ東京五輪注目競技
dot. 2021/08/02 22:30
五輪・金メダル17個の日本に韓国は5個と苦戦…韓国から「みっともないことで目立ってばかり」の嘆き
五輪・金メダル17個の日本に韓国は5個と苦戦…韓国から「みっともないことで目立ってばかり」の嘆き
選手村で韓国選手団が掲げた垂れ幕(GettyImages)  今回の東京五輪では日本の金メダルラッシュが目立っている。柔道で史上最多の9個の金メダルを獲得。水泳では大橋悠依が女子400メートル個人メドレー、200メートル個人メドレーの2冠。競泳女子日本史上初の快挙だった。  卓球混合ダブルスでは水谷隼、伊藤美誠ペアが決勝戦で中国ペアを破り、卓球史上初の五輪で金メダルに。女子ソフトボールも最大のライバル・米国を決勝で倒して2008年の北京五輪以来、13年ぶりの連覇を飾った。  今大会から追加種目になったスケートボードも注目度が上がった競技だ。女子ストリートで13歳の西矢椛が日本史上最年少の金メダリストに。男子ストリートも、22歳の堀米雄斗が金メダルを獲得した。さらに、サッカーU-24日本代表がベスト4に進出する快進撃で、野球も侍ジャパンが準々決勝進出を決めている。空手、レスリングなど日本が得意とする競技も続く。今大会で獲得している金メダル17個は過去最多だが、さらに更新する可能性が十分にある。  一方で、苦戦しているのがお隣の韓国だ。お家芸のテコンドーで金メダルなしに終わる大誤算。テコンドーが五輪の正式種目になった00年のシドニー大会以来、韓国が金メダルを獲得できなかったのは今大会が初めてだった。柔道も金メダル獲得はならず、銀メダル1個、銅メダル2個と低調な結果に。韓国紙の中央日報日本語版は31日、「エリートスポーツ育成の日本、金メダル数が韓国の3倍」というタイトルで、「韓国が獲得した5個の金メダルのうち4個はアーチェリー種目だ。韓国テコンドーは史上初めて『ノーゴールド』に終わった」と指摘した。 「韓国は競技より、日本を挑発する横断幕や、メダリストに贈呈されるビクトリーブーケに事実無根の言いがかりをつけてきたりしたことが話題になってしまった。韓国国内のSNS上では、『みっともないことで目立ってばかり』、『金メダルで世界を驚かせてくれ』などの書き込みが見られます。メダル数で日本に3倍以上の差をつけられ、屈辱的な思いが強いと思います」(韓国に駐在する通信員)  大会前、東京五輪の公式ホームページ上における竹島(韓国名・独島)の表記問題で、韓国政府は日本政府に対して竹島の表記を削除するよう要請したが、日本側は拒否。すると、丁世均前首相ら韓国の次期大統領候補たちはこの問題で静観の構えを見せていた国際オリンピック委員会(IOC)に怒りの矛先を向け、改善が見られない場合は東京五輪の「参加ボイコット」を示唆した。  また、韓国選手団が東京五輪の選手村に「臣にはまだ5千万国民の応援と支持が残っています」とハングルで記された垂れ幕を掲げたことも波紋を呼んだ。豊臣秀吉が朝鮮出兵の際に海戦で対峙し、「抗日の英雄」として知られる李舜臣将軍の言葉を連想させるメッセージとして、日本側から反発の声が殺到。IOCが「政治的な宣伝を禁じる五輪憲章第50条に違反する」と命じ、垂れ幕は撤去された。  トラブルは続く。東京五輪の表彰式でメダリストに贈呈される「ビクトリーブーケ」について、韓国の一般紙・国民日報が「組織委員会は福島原発の被害から復興する姿を世界に示すために福島産の花束を準備したが、放射能への懸念が少なからずあるのが事実だ」と主張。韓国選手団は放射能への懸念から選手村で提供される食事を拒否し、弁当を独自に手配していることも伝えた。  自民党関係者は「日韓関係の溝は深いままです。韓国は東京五輪を関係改善のきっかけにしたいと目論んでいたと思いますが、韓国選手村の一連の行動などで、日本の不信感がさらに強まってしまっている」と分析する。  韓国は競技で意地を見せられるか。(梅宮昌宗)
dot. 2021/08/02 17:30
松山英樹が悔しい“メダル逸” 最終日に狂った歯車、好調のパットが安定せず
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松山英樹が悔しい“メダル逸” 最終日に狂った歯車、好調のパットが安定せず
松山英樹 (c)朝日新聞社  東京五輪の男子ゴルフ競技が、7月29日(木)から8月1日(日)までの4日間の日程で開催された。  7月に入って新型コロナウイルスの陽性反応が出て、主戦場のPGAツアーを欠場するなど体調面で不安があった松山英樹だったが、大会の会場となった霞ヶ関CCは過去に日本ジュニアやアジア・アマチュアを制した時のコース。その好相性を見せつけるかのように、2日目に「64」を叩き出して上位争いに加わった。  3日目までに16個のバーディを奪ったが、その中でも冴えていたのがアプローチとパッティングだ。元々、今季のPGAツアーでもアプローチの貢献度で全体15位に入るなど、ショートゲームの名手である松山だが、今大会でもピンに絡むショットを連発する。  一方、ツアーでは課題だったパッティングも3日目までは好調。PGAツアーでは今季全体180位に沈んでいたパッティングのスコアに対する貢献度を示すストローク・ゲインド・パッティングは合計で3.103を記録した。ちなみに、アプローチの同数値は4.630となっており、いかにアプローチとパッティングでスコアを作ったかが現れている。  そして、松山は最終日を前にトップと1打差の単独2位に。首位に立ったのは、アメリカのザンダー・シャウフェレ。4月に松山が初めてメジャーチャンピオンとなったマスターズでも両者は最終日に優勝争いをしており、“再戦”となった。  金メダルをかけた最終日の戦いは、松山にとって我慢の展開に。特に3日目まで好調だったパッティングが決まらない。多くの選手がスコアを伸ばす中で、前半は1アンダーで折り返すと、後半出だしの11番から連続バーディを奪って上昇気流に乗るかと思われたが、13番と15番でパーパットを決めきれずにボギー。最終18番では、決めれば銅メダルとなる約4メートルのバーディチャンスを迎えたが、これも沈めることが出来なかった。  結局、最終日のストローク・ゲインド・パッティングは-3.519と3日目までとは一転。ティーショットのフェアウェイキープ率は4日間を通じて一番だっただけに、グリーン上の結果が金メダルを逃す結果となってしまった。  金メダルは前半からスコアを伸ばし続けて逃げ切りを決めたシャウフェレの手に。そして、銀メダルは最終日に10アンダーと大爆発したロリー・サバティーニ(スロバキア)が手にした。サバティーニはPGAツアーで6勝を挙げている45歳の名手だが、最後の優勝は2011年。元々は南アフリカ出身で2019年にスロバキアへ国籍を変更したことにより、今大会への切符を掴んでいた。  銅メダルの行方は、通算15アンダーで3位タイに並んだ7名によるプレーオフに。通常のゴルフ競技では、優勝以外を争ってのプレーオフが実施されることはないため、オリンピックならではの光景だ。松山は1ホール目(18番パー4)の2打目をグリーン左のラフに外すと、寄せきれずボギー。7名中5名がパーセーブしたため、ここで脱落となった。  プレーオフはその後も続き、コリン・モリカワ(米国)と潘政琮(台湾)に絞られた4ホール目で勝負が決着。潘がパーセーブしたのに対して、モリカワはパーパットを外し、潘が銅メダルを獲得している。  松山は母国日本で開催の五輪でメダル獲得が期待されたが、38位となった星野陸也とともに悔しい結果に終わった。中2日で女子のゴルフ競技も開催されるが、ここでは日本代表の畑岡奈紗、稲見萌寧のメダル獲得に期待したい。
東京五輪注目競技
dot. 2021/08/01 19:28
卓球・伊藤美誠 準決勝で中国人選手に敗れるも「日本のピエロ」と中国語の中傷コメント止まず
卓球・伊藤美誠 準決勝で中国人選手に敗れるも「日本のピエロ」と中国語の中傷コメント止まず
準決勝で敗れた伊藤美誠(写真/Gettyimages)  女子シングルスの準決勝が29日に行われ、世界ランク2位の伊藤美誠(20)=スターツ=が同3位の孫穎莎(中国)に0-4でストレート負けを喫した。決勝進出はならず、同日夜の3位決定戦へ回ることが決まった。  孫は伊藤と同年代の20歳で、互いの存在を励みに切磋琢磨してきた。直近では4連敗を喫するなど、金メダルを目指す上で難敵だったが、その壁は高かった。勝負の分岐点になったのは第2ゲーム。9-3とリードしながら8連続得点を奪われるなど逆転された。孫のフォアハンドから繰り出される強烈なボールを最後まで抑えきれず、得意のサーブも攻略された。完全な力負けだった。    白熱した試合だったが、暗い影を落としているのが中国語などによるネット上での誹謗中傷のコメントだ。孫に敗れた伊藤のインスタグラムには、「日本チームのピエロ」、「中国に勝てるのは中国だけだ」など心無いコメントが多数書き込まれている。「私も中国人ですが、美誠ちゃんは素晴らしい選手だと思います。無礼な人を相手にしないでください」と伊藤を擁護するメッセージも見られるが、モラルを欠いた書き込みは度を超えている。 「伊藤が水谷隼(32)=木下グループ=とペアを組んだ卓球混合ダブルスで日本卓球界初の金メダルを獲得したのが、卓球王国の中国にとって屈辱に感じたのでしょう。敵意むき出しで難癖をつけてきたり、嫌がらせをしている。選手にとっても迷惑だし、この状況を放置するのが健全だとは思えない。IOCは何かしら調査するべきではないでしょうか」(スポーツ紙の卓球担当記者)  水谷は28日に自身のツイッターを更新し、「とある国から、『○ね、くたばれ、消えろ』とかめっちゃDMくるんだけど免疫ありすぎる俺の心には1ミリもダメージない」と告白。「それだけ世界中を熱くさせたのかと思うと嬉しいよ 日本人の方は全て応援メッセージです ありがとう」と綴って大きな反響を呼んだが、伊藤に対しても金メダル獲得後に、ネット上の「荒らし行為」がエスカレートした。  今回は新型コロナウイルス対策により、台上の汗を拭くこと、ボールに息を吹きかける行為を控えるように呼びかけられていたが、水谷・伊藤が決勝戦でそのような反則行為をしていたとネット上で話題に。中国語で「卑怯者」、「メダルを獲得する資格はない」など書き込まれた。 「もちろん、中国人選手を応援している人たち全員が伊藤に攻撃的な態度をとっていないことは理解しています。『みっともない書き込みはやめろ。同じ中国人として恥ずかしい』など誹謗中傷に不快感を示すコメントが見られるし、伊藤に激励のメッセージも多く寄せられている。伊藤に勝った孫もこのような事態になることを望んでいないだろうし、五輪の盛り上がりに水を差す行為です。中国が卓球王国である事実は誰もが認めますが、ファンのマナーやメディアリテラシーが三流だったら、他国は尊敬の念を抱けないですよ」(民放テレビ関係者)  伊藤はシングルスで3位決定戦、女子団体の試合が残っている。心身ともに極限の世界で戦っている選手たちを傷つけるような書き込みは許されない。(安西憲春)
東京五輪注目選手
dot. 2021/07/29 17:25
「プロデュース力とはイチゴ大福みたいなもの」 酒井政利さんが語ったあのヒット作の裏話
鮎川哲也 鮎川哲也
「プロデュース力とはイチゴ大福みたいなもの」 酒井政利さんが語ったあのヒット作の裏話
ワインをたしなむ生前の酒井さん(撮影・高鍬真之)  7月16日に85歳で亡くなった音楽プロデューサーの酒井政利さん。山口百恵やキャンディーズ、矢沢永吉ら数え切れないほどの歌手やグループを手掛け、ヒットさせてきた。新しいことに積極的で、今でこそ当たり前の手法でもあるメディアミックスを、50年以上前に採り入れていた。  今年3月、週刊朝日は酒井さんに「プロデュース力」をテーマに取材した。そのとき、人生の大きな転機として挙げたのが、青山和子が歌い、1964年7月にリリースした「愛と死をみつめて」(日本コロムビア)だった。 「映画会社の松竹から転職し、音楽に携わって3年。忙しくしていたものの、従来の作品制作に物足りなさを感じていたときです。それで、映画製作をイメージしてその主題歌作りをしてみたらどうかと思い、試してみた作品なんです」  そのころのレコード会社は、作詞・作曲ともに専属制で、日本コロムビアは西条八十、古賀政男ら大御所を多数抱えていた。だが、酒井さんは原作のイメージを優先して、周囲の反対を押し切り、詞は女子大生、曲はクラシックの素養がある新人を発掘して依頼した。  酒井さんはその時のことについて、 「起用した青山和子さんには、『女子大生風の清楚(ルビ/せいそ)な雰囲気で』と髪形まで変えてもらったのを覚えています」  と振り返る。  発売して間もなく、原作本がベストセラーに。さらに大空真弓主演でテレビドラマ化(TBS)、吉永小百合主演で映画公開(日活)と続いた。 「レコードがミリオンセラー、日本レコード大賞を受賞し、青山さんは紅白歌合戦に出場できました。想定外でしたが、これが私のメディアミックスの原点になったのです。それまでの制作スタイルにとらわれず、新しい手法、新しい音楽、常に新しいものをと考えていたから導かれたのだと思います」  70年代のミリオンセラーで今も歌い継がれる名曲、矢沢永吉「時間よ止まれ」(78年)、山口百恵「いい日旅立ち」(同)、ジュディ・オング「魅せられて」(79年)、久保田早紀「異邦人」(同)も、酒井さんがメディアミックスに成功した事例だ。 「77年に広告会社の企画で、フィジーやイースター島へ池田満寿夫さん、阿久悠さん、横尾忠則さんらと3週間、旅行したんです。その間、日本と連絡は一切取らず、仕事は全く切り離していました。日本にいたら、そんなことはできません。でも仕事を忘れて頭を空っぽにしたことで、無心になれた。それがベースになってこの4作品が生まれたのだと思います」  酒井さんは「プロデューサー業とは『イチゴ大福』」と例えたことがあった。 「『混』なんですよ。酸っぱいモノと甘いモノでは合わないようですが、やってみたら意外に合う。『混』なんです。テーマにしても題名にしても、意外なもの同士を組み合わせたとき、訴求力が生まれる。それがプロデュースの妙味ですね」  酒井さんは物腰柔らかく穏やかだが、仕事にはとても厳しかった。  山口百恵のサードシングル「禁じられた遊び」(73年)から80年に引退するまでの全作品のディレクターで、酒井さんとしばしばコンビを組んだ音楽プロデューサーの川瀬泰雄さんが、こう振り返る。 「常に最高を目指すので、妥協はしなかったですね。少しでも物足りなさを感じたり、当人にそんな気がなくても酒井さんが『手を抜いた』と感じたりしたら、どんなに売れてるミュージシャンでも、有名な作詞家、作曲家であってもスパッと切っていくんです」  酒井さんと川瀬さんのコンビで、86年7月に「唇に悪夢」をリリースした元アイドル・原江梨子(現・原めぐみ)さんもこう証言する。 「この作品のジャケット写真を、人気カメラマンの山岸伸さんが撮ったんです。ところが酒井さんの『メイクがよくない』との“鶴の一声”で急きょ、撮り直しになりました。誰が見ても、特に問題があるとは思えなかったのですが、酒井さんの感覚では許せなかったんでしょうね」  現場で関係者と緊張関係を生むのは、一顧だにしなかった。 「イエスマンでもダメなんです。根拠があって反論すると、納得したら素直に認める。むしろ、反発したり、ツッコミを入れたりする人と、よく仕事をされていました。長く続いたのが、阿木燿子さん、昨年亡くなられた筒美京平さんらで、十指に満たないんじゃないでしょうか」(川瀬さん) {!-- pager_title[加藤登紀子さんに「『Jシャンソン』やりなさい」] --}  川瀬さんもその一人だ。亡くなるまで48年にわたり、交流が続いた。 「マンネリは嫌いましたね。いい意味で“ファンを裏切る”ことがテーマ。百恵で言うと、シングル13曲目の『横須賀ストーリー』が好例です。阿木燿子(作詞)・宇崎竜童(作曲)コンビを起用して、ロックビートの曲で、百恵のイメージを一新することに成功しています」  音楽制作の現場で付き合いのあったアーティストの加藤登紀子さんは、酒井さんとの印象的な出来事をこう話す。 「山口百恵さんの楽曲を依頼されたことがありました。当時、百恵さんは華やかな世界にいたので、明るい曲を作ったら、暗いジメッとした曲にしてほしかったと言われました。私はその言葉に驚いて、イメージができずに実現しませんでした。酒井さんは、百恵さんの陽の部分だけでなく、陰の部分も出したいと考えていたんじゃないかと今も思い出しますね」  酒井さんは88年に、加藤さんの米カーネギーホールでのコンサートのプロデュースをし、それがきっかけで加藤さんはフランスでのコンサートが実現、世界へ活動の場を広げることができた。ことあるごとに酒井さんには相談していたという。 「Jポップというのがあるから、登紀子さん、『Jシャンソン』というのをやりなさいと言われましたね。Jシャンソンは、酒井さんが私に残してくれたアーティストとしての指針みたいなものですね」(加藤さん)  酒井さんは加藤さんのコンサートには欠かさず訪れ、穏やかな表情で歌う姿を見ていたという。 「酒井さんはアイデアがひらめくと目がキラッと輝き、素敵な表情を見せるんです。そんな酒井さんは今もずっと近くにいて、私を見守ってくれていると感じます」  酒井さんは音楽を作るだけではなく、音楽の素晴らしさ、楽しさを伝えることにも力を入れていた。それが古賀政男音楽博物館で2001年から毎年開かれていた講座「酒井政利のJポップの歩み」である。 「毎回、昭和40年代以降に活躍された歌手をゲストとして迎えていました。酒井さんは詞と曲、いわゆる『作品』の質の高さと、作品の魅力を十分に引き出し、表現した『アーティストの力』を常に高く評価していました」  講座を担当した同館の主任学芸員の宮本紘視さんはそう話す。  数多くのヒット曲をプロデュースして歌謡界に一時代を築き、業界振興や後進育成にも尽力したことなどが評価され、2005年12月に音楽業界初の文化庁長官表彰を受賞、昨年11月には文化功労者に選ばれた。  プライベートでは、赤ワインを愛飲した。晩年まで、体調がいいとフルボトルを1本空けることも。それでも特段、酔ったふうではなく“ダンディー”のまま。セレクトは酒井さんならではだ。 「産地や銘柄にあまりこだわりません。それに固執しちゃうと、他においしいワインがあっても飲みそびれてしまうから。プロデュースという仕事もそうですが、常にオープンな気持ちで、そのつど柔軟に対応するのが最善だと思っています」  記者が最後に話したのは5月のゴールデンウィーク後の電話だった。 「書籍とか音楽イベント、講演会の依頼が、どんどん来てゆっくりできないですね。新型コロナ? そんなモノに構ってる暇はありません」  酒井さんが社長を務める酒井プロデュースオフィスによると、その後の5月末に持病のアレルギー疾患で都内の病院に検査入院し、改善したものの体力回復のため入院を続けていたという。  7月16日午後7時過ぎ、入院先の病院で帰らぬ人となった。死因は心不全だった。  ご冥福を心からお祈りします。(高鍬真之/本誌・鮎川哲也)   ※週刊朝日8月6日号に加筆
週刊朝日 2021/07/28 16:37
水谷隼&伊藤美誠が中国破り卓球史上初の金メダルも「福原愛の解説」に違和感の声
水谷隼&伊藤美誠が中国破り卓球史上初の金メダルも「福原愛の解説」に違和感の声
 世界ランク2位の水谷隼、伊藤美誠ペアが卓球混合ダブルス決勝で中国ペアとフルゲームの死闘の末に対戦し、4ー3で下した。今大会からの新種目で初代王者に輝き、1988年ソウル五輪から正式競技となった卓球で男女通じて初の金メダルを獲得した。  勝利の瞬間、水谷と伊藤は固く抱き合った。年齢は12歳離れているが、ともに静岡県磐田市出身で15年以上の付き合いがある。  きょうだいのような強い絆で結ばれた2人は強かった。第1ゲーム、第2ゲームと落としたが、攻撃的な姿勢を貫いた。第3ゲームから3連続で連取すると、第6ゲームは落としたが、第7ゲームは8連続ポイントで一気にペースを引き寄せた。  試合後のインタビューで、水谷は「本当に中国という国に五輪や世界大会でたくさん負けてきて、東京五輪で今までのすべてのリベンジができたんじゃないかと思う」と声を上ずらせると、伊藤も「すんごくうれしいです。たくさんの方の応援で最後まであきらめずにできて楽しかった」と満面の笑みを浮かべた。  この試合はフジテレビが生中継し、卓球女子五輪メダリストの福原愛(32)がコメンテーターを務めたことでも話題になった。福原は元卓球台湾代表の江宏傑(32)と今月8日に離婚したことを発表したばかり。不倫騒動から離婚後の「初仕事」が東京五輪で注目の試合だっただけに、注目度が高まるのはやむを得ないだろう。  福原は歴史的勝利の後にコメントを求められると、「もう本当に最高です。すべての卓球人の夢を叶えてくれました」と感激の面持ち。「中国に勝つなんて夢のようです」、「一緒に戦っていました」と歓喜をかみしめていた。    水谷・伊藤ペアの勝利インタビューの折、レポーターが「(スタジオの)福原愛さんにメッセージありますか」と水を向けると、2人は「愛ちゃん、金メダルとったよ」と語りかけた。すると、福原は「本当に恐縮です、恐縮です」と頭を下げるようなしぐさを見せた。  SNS、ネット上では、「水谷さん!伊藤さん!おめでとう!!よくぞ中国に勝ち、そして金メダルを取れました。快挙です!感動をありがとう。福原愛はTVに出るべきではなかった。コメントをして祝福すると、この感動と快挙が別の物になってしまうと思うのは私だけだろうか…」、「このタイミングで福原愛ね。なんか違うと思います…金メダルおめでとうでしょ」というコメントが…。  一方で、「日本卓球界念願のオリンピック金メダルだもの。テレビの前で見てる人だって嬉しいくらいですから選手も経験し携わっている福原さんもどれほど嬉しかったことでしょう。私生活の事を色々と言う方も多いですがそれとこれとは関係のないことだと思っています」という意見もあった。 「福原さんは技術面、選手の心理面を分かりやすく解説するので非常に評判が良かった。ただタイミングが悪すぎましたね…五輪でコメンテーターとして起用することはだいぶ前に決まっていたと思います。不倫騒動や離婚のゴタゴタのイメージの方が強くなってしまったのはフジテレビも誤算だった。福原さんの出演に違和感を覚えた視聴者が多かったのは致し方ないですね」(他局のテレビ関係者)  福原が視聴者の信頼を取り戻すのはもう少し時間がかかりそうだ。(安西憲春)
ピックアップ東京五輪注目選手
dot. 2021/07/26 23:38
史上最年少13歳で金の西矢椛に賞賛の嵐も「アイドルのように扱ってはいけない」の警鐘
史上最年少13歳で金の西矢椛に賞賛の嵐も「アイドルのように扱ってはいけない」の警鐘
金メダルを獲得した西矢椛(Gettyimages) 西矢椛(Gettyimages)  スケートボード女子ストリートで西矢椛(13)が金メダルを獲得した。13歳10カ月26日で五輪のメダル獲得は日本代表で史上最年少。92年バルセロナ五輪の競泳女子200メートル平泳ぎで金メダルを獲得した岩崎恭子の14歳6日の記録を塗り替えた。  西矢は19年に世界最高峰のXゲームで準優勝。今年6月の五輪予選大会最終戦の世界選手権で2位に入り、日本勢5番手から逆転で五輪切符を獲得した。ダイナミックな滑りから高度なトリックを成功させる姿は13歳とは思えない堂々たるパフォーマンスだった。なかでも印象に残ったのが、常に絶やさない笑顔だった。決勝では表情が硬くなる選手が多い中、西矢は飄々としていた。金メダル獲得が決まると涙を流した「ギャップ」に視聴者も心をつかまれた。  SNS、ネット上では、「最年少13歳にもかかわらず最高のパフォーマンスとかわいいもみじスマイルに感動しました!(原文ママ)」、「西矢選手金メダルおめでとうございます!!楽しそうに競技してる姿がとても印象的で見てて自然に応援にも力が入ってしまった。そして13歳と聞いてびっくり次々若い選手出てくるなあ。ほんと頼もしい(原文ママ)」。「13歳で金メダル。ただ凄い。その一言に尽きる。予選から安定した素晴らしい内容だったし、決勝でも全くブレずに金メダル獲得とは。実力、メンタルと共に恐ろしい13歳だな。おめでとう!(原文ママ)」など絶賛の声が殺到。なかには「西矢選手、おめでとうございます。娘と同じ年齢で学年も一緒。予選では、楽しそうにしてるが、印象的でした。何か親目線で見てしまって、感動しました(原文ママ)」「娘と同い年だ。ほんとすごいなぁ。笑顔が可愛い(原文ママ)」などと同年代の娘を持つ親からの声も少なくなかった。  西矢は試合後のインタビューで、「メダルとか意識していなくて取れたらいいなぐらいで。取れてよかったです」と振り返り、「周りの人と楽しく滑ったり、新しい技をすることが魅力です。(目標は)世界で知らない人がいないぐらい有名なスケーターです」としっかりした口調で誓った。  スポーツ紙記者は西矢の快挙についてこう語る。 「無理して笑顔を作っているのではなく、あの大舞台を本気で楽しんで笑っていた。信じられないメンタルですが、彼女は五輪内定を決めた世界選手権の時も崖っぷちを楽しんでいる様子だった。彼女にとってこの金メダルは通過点でしょう。有言実行で今後は世界的なスケーターになれる可能性を秘めています」  明るい未来を期待する一方で、ある警鐘を鳴らす。 「西矢は立派なアスリートです。日本は新しいヒロインが金メダルを獲得すると、競技そっちのけでアイドルとしてとりあげる傾向がある。過去にも14歳で金メダルを獲得して時の人になった水泳の岩崎恭子に対するマスコミの取材が過熱して、練習に集中する環境に苦しんだように、西矢を一時のブームとして扱ってはいけない。彼女は将来がある選手だし、まだ13歳。自分たちメディアは戒めなければいけない」  金メダルを獲得したことで人生は劇的に変わるだろう。だが、スケートを楽しんで高みを目指す純粋な姿勢は変わらない。今後のさらなる活躍が楽しみだ。(牧忠則)
東京五輪注目選手
dot. 2021/07/26 15:15
柔道「きょうだい金」阿部詩と一二三の成長曲線 五輪延期前に二人が語っていた「夢」とは
柔道「きょうだい金」阿部詩と一二三の成長曲線 五輪延期前に二人が語っていた「夢」とは
阿部詩選手(左)と一二三選手(c)朝日新聞社  史上初となる同日の「きょうだい金」。25日、柔道の女子52キロ級で五輪初出場となる阿部詩が、また男子66キロ級で阿部一二三が、そろって金メダルを獲得した。  妹の詩が優勝した数十分後に、兄の一二三も金メダル。「(詩が)先に金メダルを取って、絶対やってやるしかない」とプレッシャーを感じなかったという一二三。その兄の勝利が決まった瞬間、まるで自分のことのように喜ぶ詩の姿が印象的だった。  週刊誌「AERA」では、東京五輪・パラリンピックの延期が決まる直前に、阿部きょうだいにインタビューをしていた。詩は「延期になっても、自分の目指す目標は変わらない」と答えていたが、あれから1年――。コロナ禍という厳しい環境のなかで挑戦を続け、二人は「目標」を達成した。2020年4月6日号で力強く語っていたインタビューを紹介する。 *  *  *  新型コロナウイルスの感染拡大により、史上初の五輪延期が決まった。  明日の柔道界を背負う若いきょうだいは、1年後を見据えている。  「きょうだいで金」の夢は、1年後に持ち越しとなった。  阿部一二三にとっては、4月に開かれる全日本選抜体重別選手権で五輪切符をつかもうとしていた直前のこと。2月に五輪代表に内定していた妹の詩は、「延期になっても自分の目指す目標は変わらない。本番に向けてしっかり準備したい」と前を向いた。  兄と妹は同じような成長曲線を描いてきた。国内の強豪が出場する講道館杯を制したのは、ともに高校2年生の時。一二三が2017年の世界選手権で初優勝すると、18年の世界選手権では詩が初制覇した。この時、一二三も大会2連覇を果たし、きょうだいが同じ日に表彰台の頂点を独占した。「柔道史に新たな1ページを開いた」。そう国際柔道連盟が紹介するほど、インパクトの強い快挙だった。 ■「五輪4連覇」と「24歳ぐらいで結婚」  現在、22歳と19歳。家族の話は気恥ずかしくなる年頃だが、兄が妹の話を、妹が兄の話をする時、2人は互いへの尊敬の思いを隠さない。一二三が「妹に刺激をもらって切磋琢磨できている」と言えば、詩も「お兄ちゃんの柔道を見て学んできた」。詩がスーツの裏地を一二三にそろえるなど、絆の強さは普段も随所に垣間見える。  日本発祥の柔道は、いまでは200以上の国や地域に広がった。だが、国内に目を転じれば、競技人口の減少に歯止めがかからず、井上康生や谷亮子のような国民的スターは不在の時代が続く。きょうだいで「ENEOS」のCMに起用され、インスタグラムでは一二三が11万、詩も9万のフォロワーを持つ。五輪は未経験ながら、この先の柔道界の顔になる存在だ。  将来の青写真はそれぞれ違う。一二三は「野村忠宏さんを超える五輪4連覇」を大きな目標として掲げ、詩は「24歳ぐらいで結婚して、幸せな家庭を築きたい」。  まずは1年後の東京五輪を見据え、高め合い、柔の道を突き進む。 (朝日新聞記者 波戸健一)
ピックアップ東京五輪注目選手
AERA 2021/07/25 21:12
【独自調査】東京五輪日本代表の出身大学ランキング 3位池江璃花子の日大、2位畠田瞳の早稲田、1位は?
【独自調査】東京五輪日本代表の出身大学ランキング 3位池江璃花子の日大、2位畠田瞳の早稲田、1位は?
池江璃花子選手(左)は日大、内村航平選手は日体大出身(c)朝日新聞社 東京五輪出場選手の出身大学別ランキング(判明分のみ)  波乱のなかで開幕した東京オリンピック。今回出場する日本代表は583人にのぼる(男子306人、女子277人。7月15日現在)。2016年リオデジャネイロ大会の出場者は338人だったので、245人増となった。  それまで過去最高だった1964年東京大会355人(男子294人、女子61人)も、大幅に上回る。女子選手の比率は1964年の17.1%に対して、東京2020では47.5%となっている。柔道、マラソンなどいくつかの競技、そしてアーティスティックスイミングなど、新しい競技に女子選手が多く参加できるようになったからだ。  日本代表のなかで大学出身者は414人いる(判明分。国内大学に在学中、中退を含む)。全体の7割以上だ。出身大学の内訳はどうなっているだろうか。選手団名簿掲載の日本代表の在籍大学、最終学歴(学部卒<中退>、大学院修了者<中退>)を、大学、高校、所属機関などから調べた(リザーブ、補欠は含まない。追加招集を含む種目がある)。  ランキング順に、上位校の出身・在学中の出場選手を見てみよう。  1位は日本体育大の57人。2位をダブルスコアで大きく引き離した。競泳、水球、サッカー、ボクシング、バレーボール、体操、レスリング、セーリング、ハンドボール、自転車、フェンシング、柔道、カヌー、アーチェリー、7人制ラグビーなどさまざまな競技に代表を送り出している。このなかで水球14人(男女合計)がもっとも多い。  内村航平(体操)は2008年、12年、16年に続いて、東京2020大会に出場となった。村上茉愛(体操)は2大会連続出場となる。阿部一二三と阿部詩(柔道)の兄妹はいすれもオリンピック初出場だが、世界選手権を制しており金メダル候補だ。高橋藍(バレーボール)は2020年に入学し、バレーボール日本代表のなかでは最年少の19歳である。日本体育大の具志堅幸司前学長は1984年大会において体操で金メダリストとなった。  2位は早稲田大で28人だ。吉田麻也(サッカー)、瀬戸大也(水泳)、藤田慶和(ラグビー)、大迫傑(マラソン)、寺田明日香(陸上)など知名度が高いアスリートがそろう。吉田麻也は2014年、18年サッカーワールドカップ、08年、12年オリンピックに出場しており、今回は主将をつとめる。藤田慶和は15年ラグビーワードカップ日本代表となりトライをあげたが、その後、世界大会での活躍が見られず、捲土重来をはかる。  早稲田大ではトップアスリート選抜入試を行っており、その出願資格は「出願時点でオリンピックや世界選手権などの国際的レベルの競技大会への出場経験、もしくはそれに相当するレベルの競技能力を有すること」とある。これによって早稲田大は世界で勝てるアスリートを受け入れることができた。同入試を経て日本代表となったのが19年入学の大塚達宣(バレーボール)、畠田瞳(体操)、18年入学の須崎優衣(レスリング)などである。  3位は日本大26人。日本大でもっとも有名なオリンピック代表は池江璃花子(競泳)だろう。2019年2月、自身のツイッターで白血病であることを公にして療養生活に入った。「2024年パリ大会をめざす」と話しており、20年に東京大会が開かれていたら出場は絶望的な状況だった。だが、21年に延期となり、この間、池江は驚異的な回復を見せる。代表選考を兼ねた大会で優勝し、東京2020大会の代表入りを果たした。  池江が日本大に入学したのは療養中の19年。その前年、日本大はアメリカンフットボール部の悪質タックル問題で大きく揺れていた。日本大関係者がこんな話をしている。 「アメフト問題がなければ、オリンピックで代表入りするアスリートがもう少し入学していたと思います。日大はこわいというイメージから避けられて、日体大さんに流れたのではないでしょうか。残念です」  日本大はゴルフ、射撃、セーリング、水泳(飛び込み)など、競技者人口が少ない種目で代表を送り込んでおり、体育会の充実ぶりを示している。  4位は筑波大24人。1912年のストックホルム大会で、日本人として初めてオリンピックに出場したのは、当時東京高等師範学校の学生だった、金栗四三だ。同校は戦後、東京教育大、筑波大に継承され、アスリート養成の歴史と伝統はいまに伝わっている。  サッカー女子の熊谷紗希は、2011年ワールドカップドイツ大会で初優勝したときのメンバーで、全試合にフル出場していた。  自転車競技の與那嶺恵理は、2016年大会に続いて2度目の出場となる。神戸女学院高等学部から筑波大体育専門学群に進み、大学2年のときに自転車競技を始めた。その経緯がおもしろい。こう振り返っている。 「元々自転車を始めたのは、大学のテニス部を辞めたことがきっかけだったんです。体力はあるのにセンスが無くて、先輩の球拾いとかサポートばっかりやっていたんですね。私は体育会系だから競技に出ていないと楽しめなくなって、もういいかなぁって思っちゃったんです。(略)たまたま趣味としてロードバイクに乗っていた伯父さんが『その脚は自転車に向いているから、気分転換にでも乗ってみれば?」と言ってくれました』(サイクリングファンのための情報サイト「シクロワイアード」2013年12月18日)。  5位は明治大18人。若手、ベテラン、熟練がそろう。平田しおり(射撃)は政治経済学部4年、石田吉平(7人制ラグビー)は文学部3年で、いずれもそれぞれの競技で若手の成長株と言われている。  水谷隼(卓球)の知名度は全国区であろう。2008年、12年、16年、そして東京2020大会の4大会連続でオリンピック代表となった。2016年大会では団体で銀、シングルスで銅メダルを獲得。日本人で初めてオリンピックのシングルスメダリストとなった。  馬術では40代の明治大OBが選ばれた。北原広之(49歳)、大岩義明(45歳)、福島大輔(43歳)である。競技者としては熟練の域に達している年齢であろう。北原は9月で50歳を迎え、東京2020大会の代表のなかでは最年長となっている。  6位は東洋大14人。桐生祥秀(陸上)、萩野公介(競泳)というスターが輩出した。桐生は100メートルで日本人初の9秒台(9秒98)を記録した。萩野は2016年大会において400メートル個人メドレーで金、200メートル個人メドレーでは銀メダルを獲得している。  2012年大会のボクシングで史上初の金メダリストとなった村田諒太もまだ記憶に新しい。当時は東洋大職員だった。  池田向希、川野将虎(競歩)は今年卒業した。2人はライバルとして互いをリスペクトし合う仲だった。川野は母校愛が強く、拙著のインタビューでこう話している。 「大学4年の時にオリンピックが東京で開催される。東洋大の学生として出場することにこだわりを持っていました。だから、延期は残念でくやしかった。最初はショックもありましたが、酒井瑞穂コーチから『1年延びたことでさらに進化できる』と言われたことで、何ごともポジティブに考え、頑張ろうと気持ちを切り替えました」(『大学とオリンピック』中公新書ラクレ 20年)。  同じく6位は法政大14人。2009年に設置したスポーツ健康学部から、金井大旺、坂東悠汰(陸上)、上田綺世(サッカー)、柳澤明希(アーティスティックスイミング)、高橋侑子(トライアスロン)を送り出した。黒川和樹(陸上)は現代福祉学部2年である。  敷根崇裕と吉田健人(フェンシング)はいずれも東亜学園高校出身。敷根は世界選手権の銅メダリストゆえ東京2020大会でも金メダルに期待がかかる。  森脇唯人(ボクシング)は地元愛が強い。 「日本代表としてはもちろんですけど、自分は『足立区代表』として、区民の皆さんに勇気を与えられたらと思っています。(中略)お世話になった方々に、結果で恩返しをしたいです。速いテンポで鋭いパンチを打てることが自分の武器なので、ぜひ試合を見てほしい」(東京都足立区ウェブサイト2021年7月8日)。  8位は近畿大13人。若い選手が多く、7人が現役学生である。難波実夢(競泳)は今年入学したばかりの経営学部1年だ。京極おきな(アーティスティックスイミング)は経営学部2年である。  水泳が強く10人を数える。内訳は競泳4人、アーティスティックスイミング4人、飛び込みが2人。このうち4人は近畿大学附属高校出身だ。このなかで入江陵介は2012年大会で銀2つ、銅メダルを1つ取っている。なお、近畿大学附属から近畿大水泳部に進んだ選手に、2012年大会の銅メダリスト、寺川綾がいる。  東京2020大会ではベテランも活躍する。アーチェリーの古川高晴(36歳)は2004年大会から5回連続出場となる。古川は東大阪市を表敬訪問した際、こう話している。 「今までの経験から『メダルを取ってやるぞ』と思うと力んでしまう。普段の国際大会のようにリラックスしてプレーし、自分の持っている力を全部出せるようにがんばります」(ネットニュース「週刊ひがし大阪」21年5月26日)  同じく8位は中央大13人だ。石川祐希(バレーボール)は在学中から日本代表に選ばれ、もっとも名前が知られている。イタリアのプロチームで活躍していた。中央大学の魅力をこう話している。 「体育系の学生にも理解のある先生が多く、どうしてもスポーツがメインになってしまう中で勉強もしっかりサポートしてもらえるところです。それから学食をはじめとしたキャンパスの施設も充実しています。学食は4階のうどんと2階のパン屋が特に気に入っています」(中央大ウェブサイト2016年7月26日)  部井久アダム勇樹(ハンドボール)の父はパキスタン人で母は日本人、岡澤セオン(陸上)の父はガーナ人で母は日本人だ。  池本凪沙(水泳)は今年入学した法学部1年。近畿大附属高校出身だが、近畿大ではなく中央大を選んだ。  大学が得意とする競技で東京2020大会に代表を輩出したところがいくつかある。 *山梨学院大9人 6人がホッケー *帝京大6人 5人が空手 *東海学院大4人 4人全員ホッケー *至学館大4人 4人全員レスリング *金沢学院大4人 3人はトランポリン *大東文化大4人 3人がテコンドー *日本経済大4人 3人がセーリング  など。  また、日本の大学出身で海外の代表になったアスリートがいる。何人か紹介しよう。 *オマーン代表、アル・アダウィ イサ(競泳)=中京大 *ラオス代表、シティサーン スックパサイ(柔道)=天理大 *フィリピン代表、渡邊聖未(柔道)=早稲田大 *フィリピン代表、カルロス・ユーロ(体操)=帝京短大 *アメリカ代表、國米櫻(空手)=同志社大出身  大学のグローバル化はこういうところでも示されている。 <文中敬称略> (文/教育ジャーナリスト・小林哲夫)
ピックアップ大学ランキング東京五輪
dot. 2021/07/25 08:00
池江璃花子が惜しくも決勝進出を逃す 「闘病は忘れていました。完全に」
池江璃花子が惜しくも決勝進出を逃す 「闘病は忘れていました。完全に」
五輪の舞台に戻ってきた池江璃花子(左)(写真・アフロ)  東京五輪は7月24日、本格的に競技が始まり、競泳女子400メートルリレー予選に白血病から復帰した池江璃花子(21)が第2泳者として登場。2回目の五輪出場を果たした。 *  *  *  リレーでは五十嵐千尋(26)、池江、酒井夏海(20)、大本里佳(24)の順につなぎ、日本記録(3分36秒17)の更新と決勝進出を狙っていた。だが、3分36秒20のタイムで日本記録にも0秒03及ばず、全体の9位に終わって決勝進出を逃した。  16歳で初出場した2016年リオデジャネイロ五輪から5年が経った。18年のジャカルタ・アジア大会で6冠に輝いて女子初の最優秀選手(MVP)に選ばれるなど、活躍が期待されていた矢先の19年2月、白血病を公表。長期入院し、つらい抗がん剤治療を乗り越え、再びプールに戻ってきた。  退院からわずか1年8カ月で迎えた東京五輪。池江はレース後のインタビューで、 「リオのときもそうだったけど、入場の瞬間、まわりがキラキラしたように見えて、『あ、この舞台でまた泳げるんだ』とうれしかったし、またこの舞台に戻ってきて、世界の選手と戦えるっていうことは幸せだなと思いました」  と出場の喜びを語った。  そして、記者に「つらかった闘病はよぎったか」と聞かれると、 「全くなかった。もう忘れていました、完全に」と笑った。  池江は今後、最大2種目に出場する予定。混合リレーの出場の有無について、 「まだ何も言われていない。これから選手たちの調子を見て決めると言われているので、もし出るとしてもバタ(バタフライ)か自由形かも決まっていない」  と話した。  池江や他のリレーメンバーと報道陣のやり取りは次のとおり。 【池江(第2泳者)】 ――会場に入ってきたときの印象は。  リオのときも入場した瞬間に、決勝のレースで100(メートル)のバタフライで入場したとき思ったのは、まわりを見た瞬間に、こんなにきらきらしている会場は見たことないと思ったんですけど、今回もそれと一緒で、入場した瞬間は観客はいなかったんですけど、ライトのおかげもあってか、まわりがキラキラしたように見えて、「あ、この舞台でまた泳げるんだ」と思いました。それは素直にうれしいなと思ったし、またこの舞台に戻ってきて、世界の選手と戦えるっていうことは、こういう環境の中でも幸せだなと思いました。 ――目標にしていた決勝進出はならなかった。どう感じているか。  自分の力も10割出したかと言われたら10割は出せていなかったと思いますし、最後はきつくて体も動かずにゴールタッチした、次の選手につないだのもあって、自分の中では個人で考えたらいいレースはできていなかったと思うんですけど、でも、それが世界の舞台で戦うということのプレッシャーであったり、まわりの雰囲気に圧倒されたりだとか、そういうことに結構大きくレースも左右されると思うんですけど。逆に考えたら今後世界大会、五輪に出ていくにあたって、こういう経験を久しぶりにできたのは、雰囲気とかいろんな情報をつかめた試合でもあったので、これを次のレース、メドレーリレーにつなげたらと思います。 ――世界のライバルたちと会うのが一番楽しみと言っていた。一緒にスタート台に並んでみて。  やっぱり一番思ったのは、海外の選手の自由な感じは、いつ会ってもいいなと思いましたし、今回はリレーですけど、1チーム1チームがものすごく集中してチーム力を高めてこの五輪に臨んでいるっていうのは、予選の招集所や控えの雰囲気でも感じたので、それは日本でも負けてないと思いますし、それは雰囲気だけでなくて試合でもつなげられたらと思いました。 ――まわりの選手から声を掛けられた?  何人かの選手とはもう話しましたけど、みんな自分のことを待っててくれたんだなという言葉をかけてもらえてうれしいです。 ――楽しめた? それとも悔しかった。  くやしさ8割、楽しさ2割ぐらいですかね。楽しいという気持ちもものすごくあったので、ただ楽しいだけではダメなのが試合だと思うので、今回は二つの目標を立てていたんですけど、日本記録、決勝進出、二つともあと少しで達成できなかったというのが、一番悔しかったなと思います。 ――混合リレーは出る?  混合リレーはまだ発表されていなくて、私もまだ何も言われていない。これからある個人(レース)の選手たちの調子を見て決めると言われているので、もし出るとしてもバタ(バタフライ)か自由形かも決まっていない。 ――レースの前につらかった闘病のころのことがよぎったりした?  全くなかったです(笑)。もう忘れていました、完全に。 【五十嵐(第1泳者)】  9番という結果で、最低限(の目標)は決勝進出と日本記録を更新することだったので、これまで4月(の日本選手権)が終わってから準備をたくさん、これまでにないぐらい準備をしてきたので、予選からもちろん全力で泳がないと決勝進出できないということだったので、みんなが全力で泳いだ結果。これが私たちの今の実力だと思うので、まわりの国が本当に速かったという結果でしたし、私たちは全力を尽くしたので、少し悔いはありますけど、全力を尽くしたので良かったなと思います。 ――(100メートル自由形の)自己ベストが出た。  自己ベストですけど、欲を言えば53秒台を狙っていたので、隣よりも少し早く着いていれば池江選手にいい流れを作れたと思うので。足りなかったと思うのは一人ひとり少しの差というのが悔しい部分。一人ひとりがちょっと上げれば決勝に残れたので、詰めが甘いというのがわかりましたし、五輪だからこそいろんなことが起きますし。これで終わりではないので、明日からも競技が続くので、私自身800メートルリレーもあるので切り替えて自分の役目を果たせたらと思います。 ――自己ベストが出ていいコンディションを作ってこられた。  そうですね。一人ひとりの4月の結果が、今までで一番速いタイムだったので、私自身もみんなに期待していたので、日本記録は普通に泳げば更新できると思っていたので。ほんとは4人で更新したかったのは一番ありますけど。私自身、五輪は2回目ですけど、2回目は自信を持って落ち着いてワクワクして早く泳ぎたいと思って迎えられたのが初めてだったので、そういう気持ちで泳げたのが、五輪でいい経験ができて良かったと思います。 【酒井(第3泳者)・大本(第4泳者)】 ――今日泳いでどうだったか。 (大本)悔しいです。予選で日本新を出して決勝に進むっていうのが目標だったので、どちらも達成できずにリレーが終わって本当に悔しいです。 (酒井)チームで考えていた目標が両方達成できずに終わってしまって、このメンバーだから大丈夫って思って、すごく4人で高め合ってこられたし、自分たちも自分たちに期待していた部分もあったと思うので、その分ほんとに悔しいなっていう気持ちが大きいです。 ――泳ぎの面でどこがうまくいかなかった? (大本)泳いでて、ここがって思うところは自分ではなくて。確かに国際大会が久しぶりなので、流れてくる波の感覚は違うものがあったんですけど、そんなのみんな同じですし。その中でのレースっていうことははじめからわかっていることだったので。レースをこのあと振り返ってちゃんと反省していきたいと思います。 (酒井)レース中はすごく必死に泳いでいたので、今はレースの中でどこがいけなかったのかっていうのはぱっとは出てこないんですけど、しっかり振り返って反省して今後につなげていかなきゃいけないなと思います。 ――慣れ親しんだプールだけど、一方で無観客。ホームという感覚はどのくらい感じながら泳いでいたか。 (大本)いつもと変わったことは正直なかったかなと思います。 (酒井)確かに会場の雰囲気とかは選考会(日本選手権)とかと比べて実感が違う。変に五輪ムードというのをマイナスに捉えることはなかったので。いい緊張感で何回も泳いできたプールですし、子の会場で泳げてきてよかった。 (編集部・深澤友紀) ※AERAオンライン限定記事
東京五輪注目選手
AERA 2021/07/24 23:10
石川佳純に海外のファンが急増 福原愛と「対照的な性格」に女性層から人気
石川佳純に海外のファンが急増 福原愛と「対照的な性格」に女性層から人気
1月に全日本卓球選手権で優勝し、涙ぐむ石川佳純(C)朝日新聞社 リオ五輪で女子団体の銅メダルを手にする(左から)福原愛、石川佳純、伊藤美誠(C)朝日新聞社  東京五輪の卓球女子シングルスで、伊藤美誠と共に金メダル獲得が期待されるのが石川佳純だ。  12年のロンドン五輪では女子団体で銀メダル、16年のリオデジャネイロ五輪では同種目で銅メダル獲得に大きく貢献。今回は平野美宇との激しい争いを制し、シングルスの出場権を獲得し、女子団体と2種目に出場する。  若手が台頭してくる中、28歳の石川はリオデジャネイロ五輪以降に勝利から遠ざかり苦しんだ時期もあった。だが、新旧交代の波に抗う。  今年1月の全日本卓球選手権、女子シングルスで、下馬評は不利と言われていたが覆した。決勝戦は現在世界ランキング2位で「日本人最強」の呼び声が高い伊藤美誠。ゲームカウント1-3と残り1セットまで追い詰められたものの大逆転勝利。「ゾーンに入った石川は強い」と大会関係者をうならせた。全日本選手権の優勝は5年ぶり。優勝インタビューでは目に涙を浮かべていた。  この優勝に石川と同世代の女性層から多くのコメントがSNS、ネット上であふれた。 「佳純ちゃんが勝った時に涙が止まらなかった。苦しい思いをしても最後まであきらめない。生き方がかっこいいし、尊敬します」 「アスリートというだけではなく、1人の女性として佳純ちゃんを尊敬します。私は同じ年だけど職場やプライベートで色々悩みを抱えている。自分が無力だなと感じるんだけど、佳純ちゃんが頑張っている姿が大きな励みになる。五輪も絶対に見ます」  石川は幼いころから「愛ちゃん2世」と呼ばれていた。尊敬し、最大のライバルになる福原愛は「卓球界の顔」として圧倒的な知名度を誇った。  石川は中学3年の時に世界選手権の日本代表に史上最年少で選ばれ、福原と共に五輪の女子団体の2つのメダルを獲得している。特別な存在だが、プレースタイルは全く異なる。福原は右のバックハンドを得意とするのに対し、石川は左利きからのフォアハンドとサーブで攻撃を組み立てる。  女子卓球を長年取材してきたスポーツ紙記者は「性格も全然違いますね」と話す。 「福原さんは華やかで立ち振る舞いも器用な感じがします。試合に負けて感情を露わにすることもありますがそれを引きずるような素振りをメディアの前では見せずに淡々と話す。石川さんは卓球している時と普段のギャップが激しい。試合の時は戦闘モードで表情が変わりますが、普段は素朴で飾らない等身大の女性です。試合に負けると、インタビューでも悩んでいる姿を露わにしてしまう。女性ファンが多いのはそういう姿を身近に感じて親近感を覚えるのかもしれません」  福原は中国で絶大な人気を誇るが、石川もリオ五輪後にファンが急増。中国版のツイッター・ウェイボーのフォロワー数は56万人を超える。「親しみやすい雰囲気。かわいい」、「幼馴染にいそう。友達になりたい感じがする」など多くのコメントが寄せられている。  ロンドン五輪では平野早矢香、福原が引っ張り、石川は最年少だった。リオデジャネイロ五輪は福原、伊藤ともに出場。今回は最年長として石川がチームを引っ張る。老若男女から愛される石川の満面の笑顔が見たい。(安西憲春)
東京五輪注目選手
dot. 2021/07/24 14:12
茨城からハーバード、徳島からスタンフォードに合格した18歳が語り合う 東京との「格差」
茨城からハーバード、徳島からスタンフォードに合格した18歳が語り合う 東京との「格差」
松本杏奈さん(左)と松野知紀さん(右)(撮影/写真部・戸嶋日菜乃)  今夏、地方出身の高校生が、アメリカの名門大に飛び立つ。徳島県出身でスタンフォード大に入学予定の松本杏奈さんと、茨城県出身でハーバード大に入学予定の松野知紀さんだ。  松本さんはこれまで、海洋プラスチック問題解決のための研究プロジェクトを設立したり、目や耳が不自由な人にも情報を伝えられる触覚を用いた機器を研究したりした。松野さんは中学から自分の意思でオンライン英会話を始め、高校時代にG20サミット公式付属会議で各国政府への政策提言などを行ってきた。高い英語力と学業の成績だけでなく、こうした課外活動への積極的な取り組みもアピールする必要がある海外大受験。渡米を控えた同い年の2人が、地方ならではの海外大受験の大変さを語りあった。 <<後編『地方からハーバード、スタンフォードに合格した2人が語る 海外大への道を阻む「奨学金」の壁』に続く>> *  *  * ――お二人は知り合いだそうですね。 松本杏奈さん(以下、松本):学部生から海外大に留学する人は少ないので、お互いのことはSNSなどで認知していました。私はatelier basi(アトリエバシ)という、全国各地の熱意のある学生の海外大進学を無償でサポートする団体の一期生なんです。 松野知紀さん(以下、松野):ハーバード大の合格後、atelier basiでメンターを募集していると聞いて参加したところ、そこに松本さんがいました。それからは団体のミーティングや一対一で、オンラインで話すようになりました。お互い境遇がちょっと似ているので。でもインパーソン(対面)で会ったのは今日が初めてです。 松本:松野くんの合格したハーバードは理論的な人が多く、私の合格したスタンフォードは問題児的な人が多いといわれることが多いんです(笑)。私は思ったことをそのまま行動に移してしまうのですが、松野くんは問題点に対して解決策を理論的にじっくり考える人という印象です。 松野:ありがたいですね(笑)。松本さんは発信力があって、人を惹きつける力が非常にあるなと思います。海外大進学のプロセスや「壁」についてツイッターで積極的に発信していて、それに対するいいねやリツイートも多く、それで松本さんのことを知った人もいると思うんです。発信力は私にはない部分なので、尊敬しています。 壮絶な環境でも海外大進学の目標を曲げなかった松本さん(撮影/写真部・戸嶋日菜乃) ■「アメリカの大学受験って簡単なんやろ?」と言われて ――海外大受験について、周りの人の反応は。 松本:私の周りは猛反発でした。私が勉強していたら、同級生が「アメリカの大学受験って簡単なんやろ?」「数学は誰でも解けるレベルなんやろ」と謎の嫌がらせをしにくる。学校の先生にも、廊下ですれ違いざまに「アメリカの大学は帰国子女とかじゃないと無理だと思うから、考え直した方がいいと思うぞ」と言われていました。海外大出願のためのエッセイ(小論文)を書くために教室でパソコンをいじっていると、「でもエッセイ書くだけでしょ?」「日本より楽じゃん、逃げじゃん」とも言われましたね。 松野:私の学校には人のやりたいことを尊重するという自由な空気があったので、そこまで荒波という環境ではなかったです。周りの皆も海外大受験がどういうものなのか理解はしていなかったと思うのですが、私が頑張っているということは伝わっていて、同級生から「頑張ってね」と声をかけてもらったのはありがたかったですね。 松本:私も頑張っている姿を見せるとその状況も変わってきました。秋ごろになると切羽詰まってきて、頭はぼさぼさの状態で眼鏡をかけて登校して、机にエナジードリンクを置いて誰とも話さずに勉強していたんです。先生も「寝てるか? 大丈夫か?」と心配してくるんですよ(笑)。最後のほうは、皆「こいつは本気なんだな」とわかって応援してくれました。  私の学校では「女子は絶対に続かないから理工系には行くな」と言われていました。物理の先生から「今ここにいる女子は物理は向いてないから生物選択に変えてこい」と言われて女子が泣き出したことがあったんです。そこで私が「何を言ってるんだ」と立ち上がったら、ほかの皆に「考えすぎなんじゃない」と言われて。 松野:ええ……実際に理工系に進学した人もいないの?  松本: 本当は工学部に行きたかったのに、「潰しが効かない」から仕方なく医学部に行った先輩がいて、彼女が高校に合格体験記を話しに来た時に、号泣しながら「医学部なんて行きたくなかった」と言ったんですよ。そのあとトイレに行ったら、私と同じ理工系志望の同期の女子たちが泣いていて。その子たちに「お前ら絶対行きたい道曲げんなよ、行きたいところに絶対行くべきだ」って言ったら、今年はたくさん理工系進学者が出た(笑)。 地方と都会の格差を実感しつつ、それが強みにもなったと話す松野さん(撮影/写真部・戸嶋日菜乃) ■東京の高校生と会って気づいた地方との格差 ――地方ならではの困難を感じたことは。 松本:アジアサイエンスキャンプという学者と学生の交流プログラムがあるのですが、私は何カ月もかけて応募書類について調べて学校の先生を説得し、ようやく応募することができたんです。そこで東京の高校生と会ったのですが、「学校の壁にポスターが貼ってあって、先生に勧められた」「このキャンプ、何をするのかわかってないんだよね」と言うんです。頬をひっぱたかれたような衝撃でした。海外大受験の推薦状にしても、先生に普通に書いてもらえたり、出身校について英語で説明する書類も、もともと学校が準備してあったり。東京の子がエッセイを書いている間に、私は出身校の説明文を書いている。その差は大きかったですね。 松野:自分から能動的に動かなくても情報が入ってくるので、課外活動は首都圏の学生のほうが参加しやすいんですよね。さらに出願するときには、学校の先生の理解や、学校がもつリソースの差も大きい。私の場合も、先生にアメリカの大学に出願するプロセスを一から説明しました。またスクールプロファイルはほとんど私が書いて、推薦状も「こういうことを書いてほしい」とかなり細かく先生にお願いしました。あの労力をほかの部分に割くことができていれば、エッセイ執筆や他の部分にもう少し時間をかけられたかもしれないし、夜はもっと早く寝られたかもしれない(笑)。 松本:うんうん、本当にそう(笑)。私たちは合格したからそれもいい経験だったと言えるけど、もし全落ちしていたら、先生や学校のことを恨んでいたと思う。自分は地方と都会のギャップを埋めてここにいるけれど、海外大進学の現実を周知することで、この埋める作業の労力を縮めていきたい。 松野:その努力の一つがatelier basiでの活動ということですね。そうした地方と都会の格差を感じた一方で、高3になると、客観的に見られるようになった部分もあります。格差がある中で、自分がどのように課外活動などを頑張ってきたのかをアプリケーション(願書)で強調できたからです。 ■スタンフォードから届いた「あなたを合格にした理由」 松本:地方だからこその努力は無駄にならなかった。日本の大学受験では一定の点数を越えないとだめだけれど、アメリカの大学では、スタートラインが低いところから努力してある程度のところまで昇ったことを評価してくれる。私は課外活動にしても自分で全部調べて、やりたい研究プログラムがないから企業に直接メールを送ってお金を出してもらうなどの経験を通じて、自分も行けるんじゃないかと海外大受験の自信がついてきました。 松野:海外大は総合評価なので、例えば学力が好ましくない人でも、原動力があって何かを成し遂げたとか、壮絶な環境のなかで努力したとか、そういったコンテクスト(文脈、背景)を考慮して合格者を選定しているんですよね。現状としては、日本からは都市部出身者が合格することが多いですが、地方からチャレンジする人が少ないというだけだと思います。リソースが限られた環境で頑張ってきた人と、周りにいろいろなリソースがあって自分からはとくに何もせずに実績をつくった人がいれば、前者が評価されると大学の審査官から聞いたことがあります。 松本:大学合格後、スタンフォードから届いた手紙に「あなたを合格にした理由」というものが書いてあったんです。「あなたの、周りから定められた可能性すべてを突破し、つかめるチャンスをすべてつかみ、前例がないなら自分が前例になるという貪欲な姿勢に、私たちは感銘を受けました」というような内容でした。やっぱりそういうところをちゃんと見てくれているのだと思います。 松野:私もハーバードの面接で、担当者の方と話が盛り上がりました。大学に行くのは全生徒の10%もいないという高校からハーバードに行った人で、地域の格差や困難など思うところがあったようです。自分のそういったバックグラウンドが、海外大受験ではむしろ強みになったのかなと思います。 <<後編『地方からハーバード、スタンフォードに合格した2人が語る 海外大への道を阻む「奨学金」の壁』に続く>> (構成/白石圭)
スタンフォードハーバード松本杏奈松野知紀
dot. 2021/07/24 11:00
東京五輪女子ビーチバレー、注目すべき世界の「プレイヤー」たち
東京五輪女子ビーチバレー、注目すべき世界の「プレイヤー」たち
直近のワールドツアーで2連勝したアメリカのクレス(右)/スポンシル(左)組(写真提供・FIVB) 東京オリンピック優勝候補のブラジルの若き星・デュダ(写真提供・FIVB) 日本の大会と相性がいい カナダ・バンスリーの攻撃(写真提供・FIVB) 開催国枠で出場する日本の石井(右)/村上(左)組(写真提供・ビーチバレースタイル) 「東京2020オリンピック競技大会」ビーチバレーボール競技が7月24日(土)、東京都品川区の潮風公園で開幕する。ビーチバレーボールは、1996年アトランタオリンピックで正式競技になって以降、ロンドンオリンピックやリオデジャネイロオリンピックでチケットの売上が最も好調といわれた注目の競技である。  太陽光を遮るサングラスを外すと、力強いプレーとは裏腹にキュートな表情が印象的な女子のビーチバレー選手たち。ここでは、強さと美しさを誇るプレーヤーたちを数名紹介していく。  トップバッターを飾るのは、過去6大会中3大会で金メダルを獲得してきたアメリカのサラ・スポンシル。選手層が厚く、競争が激しい国予選を勝ち抜いてきた期待の新鋭だ。高身長パートナーのケリー・クレスの背後で、縦横無尽にコートで舞うスピードのあるレシーブ、華麗なるボールコントロールは必見。直近のワールドツアーでも2連勝しており、若さ溢れるプレーがこの東京でも爆発すれば、優勝も十分ありえるだろう。  次に挙げるのも、ベテラン勢が顔をそろえる女子世界トップチームの中で、若さがきらりと光るブラジルのエドュアルダ“デュダ”サントス・リズボア。2年前に開催された東京オリンピックプレ大会となったワールドツアー東京大会でも優勝した実力派プレーヤーである。武器は、アンダーカテゴリー時代から積み上げてきた強靭なフィジカルを土台にした球際の強さとタフさ。サングラスを外せば、その逞しいプレーから想像できないような22歳のはじける笑顔が存在する。東京オリンピック直前のワールドツアーグシュタード大会でも優勝しており、パートナーである大ベテランのアガタ・ベドナルチュクと勢いに乗っていけるか、期待がかかる。  最後に紹介するのは、ビーチバレーボールおよびバレーボールをしている日本人プレーヤーにぜひ見てほしいカナダのヘザー・バンスリーだ。身長170cmながら今大会で自身2回目のオリンピック出場を果たした。空中での抜群のボディコントロールから繰り出すジャンビングサーブやショットテクニックは圧巻。世界の高さをさらりとかわす姿は、まさにクールビューティーそのもの。近年はなかなか上位進出できていないが、バンスリーは日本で開催されたワールドツアーで2回、表彰台に立っている。高温多湿という環境での強さを最良のパートナー、ブランディ・ウィルカーソンとともに生かせるか。  見どころが満載なビーチバレーボール。日本からは開催国枠として石井美樹(荒井商事/湘南ベルマーレ)/村上めぐみ(オーイング)組、男子は石島雄介(トヨタ自動車)/白鳥勝浩(トヨタ自動車)組が出場する。  石井/村上組は24日(土)朝9時からチェコとのオープニングゲームに出場(NHK Eテレにて放映予定)。7シーズン、ペアを組み、日本のビーチバレーボールをリードしてきた石井/村上組にとって東京オリンピックは最後の戦い。最高峰の舞台での石井/村上組の集大成に注目してほしい。※チェコ代表選手が新型コロナ陽性判定を受けたため、 不戦勝の可能性あり (文・吉田亜衣) ●吉田亜衣/1976年生まれ。埼玉県出身。ビーチバレースタイル編集長、ライター。バレーボール専門誌の編集 (1998年~2007年)を経て、2009年に日本で唯一のビーチバレーボール専門誌「ビーチバレースタイル」を創刊。オリンピック、世界選手権を始め、ビーチバレーのトップシーンを取材し続け、国内ではジュニアから一般の現場まで足を運ぶ。2021年5月、ビーチバレースタイルWEBサイトをリニューアル。動画、写真、インタビュー、速報ニュースなど中心に報道を行っている。ビーチバレースタイルサイト bvstyle.net
dot. 2021/07/23 18:00
大坂なおみが開会式にサプライズ登場 104歳聖火ランナー箱石シツイさんが語る東京五輪 
大坂なおみが開会式にサプライズ登場 104歳聖火ランナー箱石シツイさんが語る東京五輪 
 2020年3月12日にギリシャオリンピアで採火された聖火がまもなく東京・国立競技場へやってくる。テニスの大坂なおみ(23)が東京五輪の開会式を走る聖火ランナーとしてサプライズとして登場する。23日午後8時から国立競技場で開かれる開会式でトーチを持ち、聖火を運ぶという。  聖火ランナーの最初の走者は、2011 FIFA女子ワールドカップ優勝時のワールドカップ日本女子代表メンバーで、3月25日に福島県のJヴィレッジを出発。聖火ランナーは公募により1万人程度が選ばれたが、その中で栃木県内最高齢走者の104歳の現役理容師・箱石シツイさんに東京五輪で楽しみにしているところを聞いた。 *  *  *  箱石シツイさんにお話を聞こうと連絡したところ、長男・英政さん(77)から突然の悲報を伝えられた。シツイさんが聖火ランナーとして大役を果たした翌日、元気だった姪が亡くなったという。 「実は最近、母の姪が87歳で、甥が62歳で亡くなったんです。姪や甥とは、母が102歳まで一人暮らしだったので、お互いの家を行ったり来たりしていました。親子みたいに付き合っていたんですよ。姪は聖火リレーのゴール地点で雨の中待っていてくれて“頑張ったね!”って声をかけてくれた……。その翌日、脳内出血で亡くなってしまったんです」(英政さん)  シツイさんの“完走”をゴール地点で見届け、まさに一夜明けた後の突然のお別れだった。姪が自家製の漬物を持参して、シツイさんの家を訪ね一緒に漬物を食べながらおしゃべりする仲良しぶりだったそう。シツイさんの悲しみは測り知れない。 「それで、母は大変ショックを受けてしまって……やっと、今、元気が戻りつつあります。聖火リレーが1年延期になったので、本番までは2年間近く時間がありました。本人は毎日欠かさず練習をしていたので、それが終わって、大役を果たしたという気持ちと姪を失った気持ちでダブルショックだと思います」(英政さん)  今も現役で理容店に立つシツイさんだが体調を崩してしまったそうで「病院で点滴を打ってもらってきました。口内炎ができてしみてご飯が食べられなくて……」と明かしてくれた。  英政さんにシツイさんが楽しみにしている今回の東京五輪に関してたずねてみると、「前回の東京五輪は、子育てと理容店での仕事で忙しくて全然見られなかったんです。だから、今回はテレビで見られるだけでも嬉しいと思います」  開会式を前に予選が始まっているが、シツイさんが注目している競技は、聖火リレーをするほどの健脚なだけあって“陸上”!? 「見られるだけで嬉しいので、特に注目している競技があるわけではないですが、小学生の頃の母はチビだったそうで、今もチビなんですが(笑)、身長138センチしかない。この辺は田舎なので、小学校が分校で3つに分かれていて、年に一度、1か所に集まって運動会をやるんですが、その時は徒競走、学校対抗リレーでいつもトップだったと言っています。チビなんですけど走るのは早かったみたいです。運動全般、得意だったみたいですね。当時はドッジボールとかそんなスポーツしかなかったみたいですが。そうですね、僕と一緒に東京五輪を観戦すると思います。もし、母が若い頃に戻れたら陸上競技は好きだったかもしれないですね。その辺のところ母に話してもらいましょうか?」(英政さん)  点滴を打って病院から帰ってきたシツイさんにつないでもらうことができた。 ――体調はいかがですか? 「失礼いたしました。おかげさまで今のところ大丈夫です(笑)。元気そうな声をしていますか!? 声が少し枯れてしまっているんですが。へへへへっ」 ――いよいよ開会式で聖火が灯りますがトーチを持った感想は? 「“ドスッ”という感じで、ちょっと重かったですよ。トーチを上げて走れるように、トーチと同じ重さの物を持ちながら、腕を上げて走る練習をしていました。毎日、1000歩。家の前の体育館の辺りや庭をグルグル、毎日欠かさず歩いていました。歩ける限りは歩こうかなと思っていますよ。歩数を増やしていこうと思っています。そうすれば、自分でいろいろなことができますからね」 ――体操も毎日続けられていらっしゃったんですか? 「ここのところずっとちょっとショックで体操は続けられていませんでした。聖火ランナーが終わってすぐは、少しは続けていたんですけど……。あと、2~3日したらまた自己流体操を再開したいと思います。かかとで歩くようにしています。つま先で歩くと転んでしまう危険があるので、かかとでしっかり歩いています。なので、そろそろまた運動を再開したら、かかとで歩きますよ。今のところフラフラなんですけど(笑)」 ――前回の東京五輪の時は? 「29歳でした。理容店がだんだん忙しくなってきた時で食事する時間すらなかった頃です。戦争中は子どもをふたり連れて疎開していて、夫を戦死で失いました。だから、子育てと理容店の仕事で前回の東京五輪は見ていないですよ。今回の東京五輪は開会式からゆっくり見られそうです。続けている理容店の仕事は予約のお客様だけで、もう、歳ですから、そんなに、頑張っていないんですよ(笑)。今年の11月10日で105歳ですからね。なので、なるべく自己流体操をやって、これからも自分でできることはやっていきたいと思っています!」  元気を取り戻しつつある箱石シツイさんがつないだ聖火が、大坂なおみの手に渡り、開会式で聖火台に灯される。その瞬間を日本中が楽しみにしている。(AERAdot.編集部 太田裕子)
東京五輪聖火ランナー
dot. 2021/07/23 17:00
東京オリンピック前半でメダルラッシュも 「金メダル1号」の瞬間は?
東京オリンピック前半でメダルラッシュも 「金メダル1号」の瞬間は?
新国立競技場(撮影/写真部・小林修)  今月23日からついに始まる東京オリンピック。メダルラッシュも期待できる前半戦。各日の見どころを紹介する。 *  *  * ▼23日(開会式・第1日)  新型コロナウイルスの感染拡大の影響で1年遅れとなった東京五輪が開幕する。計33競技339種目が実施され、世界から1万人以上の選手がメダルを争う。なお、開会式前の21日からは、サッカーとソフトボールの予選が始まる。どちらもメダルが期待される競技だ。 ▼24日(第2日)  日本の金メダル第1号候補は、柔道女子48キロ級の渡名喜風南(となきふうな)と男子60キロ級の高藤直寿だろう。二人とも世界選手権優勝経験者で、実績は十分。  競泳女子400メートルリレー予選では、急性リンパ性白血病から復帰した池江璃花子が登場。奇跡の復活を遂げた21歳の水の女王は、どんな泳ぎを見せるのか。 苦難を乗り越えて五輪連続出場をつかんだ池江璃花子 (c)朝日新聞社 ▼25日(第3日)  競泳の決勝がスタート。前回のリオ大会では金二つを含むメダル7個を獲得した。前大会以上の結果が目標だ。エースの瀬戸大也は競泳最初の決勝種目、男子400メートル個人メドレーに挑む。瀬戸は複数種目での金メダルを狙い、200メートルバタフライは28日、200メートル個人メドレーは30日に決勝が行われる。  この日のもう一つの注目は、柔道女子52キロ級の阿部詩と男子66キロ級の阿部一二三。兄妹同日金メダルとなれば世界初。  スケートボードもメダルの可能性が高い。ストリート男子には、6月の世界選手権を制した堀米雄斗が出場。現在は世界ランク2位だ。新競技初の金メダルなるか。 ▼26日(第4日)  今大会で最も金メダルに近いと言われるのが、柔道男子73キロ級の大野将平だ。リオ大会で金を獲得し、その後も主要な世界大会で勝ち続けている。  体操男子団体も五輪連覇を狙う。中国、米国、ロシアといった強力なライバルを迎え撃つ。  スケートボード女子ストリートの西村碧莉(あおり)は、6月の世界選手権で優勝。男子の堀米と“アベックメダル”を狙う。 ▼27日(第5日)  松元克央が、競泳男子200メートル自由形で日本勢初となる金メダルを射程に捉えた。4月には自身の日本記録を更新、愛称「カツオ」で慕われるホープの視界は良好だ。  体操女子団体は、村上茉愛(まい)と畠田瞳を中心にチームを構成した。リオ大会で4冠に輝いたシモーン・バイルスがいる米国にどこまで近づけるか。  3大会ぶりの復活となったソフトボールは、08年北京大会で2日間で計3試合完投して金メダルを獲得した上野由岐子の雄姿が再び見られる。今大会では、藤田倭(やまと)との二枚エースで金を目指す。 ▼28日(第6日)  この日は野球もスタート(地上波の放送は未定)。全員プロ選手で構成した。エースはオリックスの山本由伸、楽天の田中将大らも集結した。 野球日本代表の精神的支柱となる田中将大 (c)朝日新聞社  新種目のサーフィンは、気候を熟知している自国選手が有利とされる。特に、開催地となる千葉県一宮町出身の大原洋人はホーム・アドバンテージを生かしたい。 ▼29日(第7日)  卓球王国の中国が最も恐れるのが、女子世界ランク2位の伊藤美誠。伊藤はシングルス、団体、混合ダブルスの3種目にエントリーした。  競泳男子200メートル平泳ぎでは、新世代のエース佐藤翔馬にチャンスがある。20年には自己ベストを2秒近く更新した。本来の実力を出せればメダルも夢ではない。  柔道女子78キロ級の濱田尚里(しょうり)は30歳で五輪初出場。「寝技のハマちゃん」と呼ばれ、ロシア発祥の格闘技であるサンボの世界選手権で優勝した経歴も持つ万能ファイターだ。 ▼30日(第8日)  卓球男子で14歳10カ月で世界ランクトップ10入りした張本智和は、現在は18歳、世界ランク4位。五輪で飛躍できるか。  12年ロンドン大会で銀のサッカー女子「なでしこジャパン」が、2大会ぶりのメダルを目指す。世代交代を経て、新たな時代の幕開けだ。 ▼31日(第9日)  全仏オープンを精神的な負担で途中棄権したテニス女子の大坂なおみが、日本代表選手として帰国。テニス四大大会を4度制覇した実力者が、五輪でよみがえる。 五輪初出場の大坂なおみ (c)朝日新聞社  バドミントンは全5種目でメダルの可能性がある。日本の絶対的エースである男子シングルスの桃田賢斗は世界ランク1位、女子ダブルスの永原和可那、松本麻佑ペアは18、19年の世界選手権を制覇した。 (本誌・西岡千史) ※週刊朝日  2021年7月30日号
写真特集東京五輪
週刊朝日 2021/07/23 17:00
池江璃花子も開発に参加 「水面に対してフラット」な水着で好記録に期待
池江璃花子も開発に参加 「水面に対してフラット」な水着で好記録に期待
池江璃花子は100メートルバタフライが得意種目だが、東京五輪ではリオ五輪8位の400メートルリレーにエントリーした (c)朝日新聞社  東京五輪に出場する選手を支えるのは最新技術だ。池江璃花子選手は自ら開発に参加した水着で臨む。「五輪」特集のAERA 2021年7月26日号の記事を紹介。 *  *  * 「私は必ず戻ってきます」  病室で決意を語った池江璃花子(21)が東京五輪の舞台に立つ。  2年前に彼女の言葉を聞いたスポーツ用品メーカー、ミズノのスイム担当・藤田真之介さん(46)は振り返る。 「こうなってほしいなという想像をいつもはるかに超えてくる」  池江は16歳で挑んだ2016年リオデジャネイロ五輪の競泳女子100メートルバタフライで、予選から決勝まで日本記録3連発で5位入賞。2年後のジャカルタ・アジア大会では6冠に輝き、女子初の最優秀選手(MVP)に選ばれた。  19年2月に白血病を公表。10カ月に及ぶ入院中の抗がん剤治療はのちにテレビ番組で「死んだほうがいいんじゃないかって思っちゃったときもありました」と言うほどつらいものだった。だが、退院から1年4カ月後の日本選手権で4冠を達成し、東京五輪代表を決めた。  女子400メートルリレー(7月24日に予選、25日に決勝)にエントリー。混合メドレーリレーや女子メドレーリレーに出場する可能性もある。藤田さんは言う。 「泳ぎ切った後、本人が笑顔でいてくれたらそれで十分です」 ■水面に対してフラット  その池江の泳ぎを支えるのがミズノのGXソニックシリーズ。同社が提唱する理論「フラットスイム」を具現化した水着だ。水着企画担当の大竹健司さん(44)が説明する。 「水泳は水の抵抗をいかに小さくするかが重要です。足や腰が下がらず、水面に対してフラットな姿勢を維持できるよう、腰から太ももにかけてラインをクロス状に配置してテーピングのようにサポートしました」  東京五輪に向けた開発には池江も参加した。闘病前に「肩回りを動かしやすくしてほしい」などと要望。入院中の19年11月に発表された最新モデルは撥水(はっすい)性能が向上し、水中での重量が男性用で20%軽くなった。女性用水着には体幹部に独自のサポートラインを初めて配置した。  水着はどれほど泳ぎに影響するのだろうか。08年に英スピード社が発表した「レーザー・レーサー(LR)」は、高速水着騒動を起こしたことで知られる。体を締め付け、ポリウレタン製の薄い膜のようなパネルをはり付けた水着だ。着用した欧米の選手が好記録を連発。日本のメーカーの水着を着ていた日本選手も、北京五輪では多くがLRに切り替えた。  元日本水泳連盟広報委員の望月秀記さんは、騒動の予兆は北京五輪の10年ほど前から始まっていたと指摘する。 「昔の男性用水着はVパンツ型でしたが、1998年の世界選手権にはスパッツ型、00年シドニー五輪では全身を覆う水着が登場しました。水着は泳ぎの速度や浮力を助けないという考えから、水着で筋肉のぶれを抑え、体を締め付けて水の抵抗を減らし、泳ぎを助けるものに変わりました」  開発競争は激化し、水や空気を通さないラバー製の水着も登場した。そのため国際水泳連盟は素材や形状など細かい制約を定めた。 ■多くの人が一緒に戦う  ミズノの社員としてGXシリーズの開発に関わってきた、12年ロンドン五輪女子100メートル背泳ぎの銅メダリスト、寺川綾さん(36)は言う。 「水着も信頼し、自信を持ってスタート台に立つことが、いいレースにつながる。開発にかかわってくれた多くの人たちが一緒に戦ってくれているようで心強かったです」  縫製工場では選手の写真を飾り、丁寧につくっているという。  国際水連の水着認可委員会委員を10年以上務めてきた中京大学スポーツ科学部教授の高橋繁浩教授(60)はこう話す。 「現在の水着は厳しいルールの中で作られているので機能的な差はあまりなくなった。ただ、LRの登場以来、選手たちの中で水着が記録短縮をサポートしてくれるという期待が高くなっています」  池江は、自らが開発に携わった水着で好記録を目指す。(編集部・深澤友紀) ※AERA 2021年7月26日号より抜粋
東京五輪注目競技注目選手
AERA 2021/07/23 11:30
五輪を彩った美しきヒロイン9人 「トルコの妖精」や「野生のイルカ」?
五輪を彩った美しきヒロイン9人 「トルコの妖精」や「野生のイルカ」?
マリア・シャラポワ (GettyImages)  多くの「いわく」がついてしまった東京ではどんなアスリートが雄姿を見せるのか? 歴代五輪を彩った美しきヒロインたちを振り返る。 *  *  * 1.マリア・シャラポワ(ロシア/テニス) ランキング1位だった2012年、ロンドン五輪に出場。ロシア選手団の旗手を務めた。決勝で宿敵、セリーナ・ウィリアムズ(米)に1ゲームしか取れず完敗、銀メダルを獲得 2.ナタリア・クチンスカヤ(旧ソ連/体操) 1968年のメキシコ五輪で団体総合と平均台で金メダルのほか、2種目で銅メダル。人気沸騰し「メキシコの恋人」と呼ばれたが、病気のため70年に引退 ナタリア・クチンスカヤ (c)朝日新聞社 3.ナズ・アイデミル(トルコ/バレーボール) 2012年、ロンドン五輪にセッターとして出場して9位。その美貌から「トルコの妖精」と呼ばれ、人気者に。木村沙織はトルコリーグ時代、コンビを組んでいる 4.エレーナ・イシンバエワ(ロシア/棒高跳び) 2004年アテネで世界新、08年北京では5メートル越えの世界新記録を出して金。12年ロンドンでも銅。陸上界屈指の美女と謳われた。通算で28回、世界記録を更新 エレーナ・イシンバエワ (GettyImages) 5.エフゲニヤ・カナエワ(ロシア/新体操) 2008年の北京五輪ではウクライナのアンナ・ベッソノワとの「美の対決」を制し、個人総合金メダル。ロンドン五輪で史上初の個人総合2連覇を果たす エフゲニヤ・カナエワ (GettyImages) 6.ナディア・コマネチ(ルーマニア/体操) 1976年、14歳で出場したモントリオール五輪で史上初の10点満点を連発。金3、銀・銅各1を獲得。「白い妖精」と呼ばれた。モスクワ五輪でも金2、銀2と活躍 ナディア・コマネチ (c)朝日新聞社 7.畠山愛理(新体操) 2012年ロンドン五輪、16年リオデジャネイロ五輪に連続出場し団体入賞。15年のミス日本コンテストで特別表彰された。16年のリオ五輪後に引退した 畠山愛理 (GettyImages) 8.田中理恵(体操) 2012年のロンドン五輪に出場し団体で8位入賞。10年の世界選手権では日本女子初の「エレガンス賞」を受賞。13年の引退後はタレントとしても活躍 田中理恵 (c)朝日新聞社 9.小谷実可子(アーティスティックスイミング) 1988年ソウル五輪では日本選手団の旗手を務め、ソロとデュエットで銅メダル。「野生のイルカのように美しい」と言われた。現在はJOC理事 小谷実可子 (c)朝日新聞社 ※週刊朝日  2021年7月30日号
写真特集東京五輪
週刊朝日 2021/07/22 11:30
五輪直前の女医の発言は日本の良心「今、人類がすべきは集まってスポーツをすることではない」
北原みのり 北原みのり
五輪直前の女医の発言は日本の良心「今、人類がすべきは集まってスポーツをすることではない」
国立競技場(c)朝日新聞社 北原みのり(きたはら・みのり)/1970年生まれ。作家、女性のためのセックスグッズショップ「ラブピースクラブ」代表  作家・北原みのりさんの連載「おんなの話はありがたい」。今回は、本日から競技が始まった東京五輪・パラリンピックについて。 *  *  *  1936年、4年後のオリンピックが東京で開催されることが決まった年、それはもう大変な騒ぎだったという。東京女子医大創設者の吉岡彌生が、日本女医会誌の巻頭言でこう記している。 「朝野の人々等は、多年の宿望達せりとて狂気の如く打ち欣び、莫大の資を投じて各種祝賀の催物さへ行はれたと聞く」 “皇紀2600年”の大イベントと位置づけられた厳粛さを求められる1940年東京五輪、さすがに首相自ら海外の五輪会場に乗り込み、ゲームの主人公に扮して“東京で待ってまーす”というようなお祭り騒ぎをするようなことはなかっただろうが、それでも日本の女医の道を大きく切り開いた当時65歳の吉岡彌生は、「狂気の如く打ち欣ぶ」お祭り騒ぎに苦言を呈している。 “(五輪は)お祭り騒ぎをするものではなく、国民の公徳心を高める機会にするべきだ”と。そして3つの提案をしていた。それがこれだ。 1:路上に痰を吐かないこと 2:ゴミや吸い殻を路上に捨てないこと 3:電車等に乗るとき、我先にと乗り込まないこと  85年後の東京でも、余裕でそんな人、いくらでもいますよ! と思わず叫びそうになる。というか、その程度の3つで、昔はよかったんですか! と涙が出そうだ。今の五輪に対してなら、吉岡先生はなんて言うだろう。 1:東京の夏は温暖で過ごしやすいとか、汚染水はコントロールされているなどと嘘をつかないこと 2:他の人がつくった意匠をまねしないこと 3:賄賂を渡さないこと(少なくとも疑われるようなことをしないこと) 4:女性を豚にたとえたり、「わきまえない」などと侮辱したりしないこと 5:競技場設立のために人のすみかを奪わないこと 6:弱い立場の者を虐待した過去を自慢しないこと (まだまだあったような気もするが、忘れているだけかもしれない)そして多分、医者としてこうも言っていたことだろう。 7:疫病がはやった時は人を集めないこと  7月12日に日本外国特派員協会で、日本女医会の理事の青木正美先生、前会長の前田佳子先生、フラワーデモの呼びかけ人の松尾亜紀子さん、看護師の宮子あずささん、東京都教職員組合の長野みゆきさん等と海外の関係者に向けて、パンデミック最中の東京五輪がいかにリスクがあり、特に女性に対してより過酷に働くことを訴えた。  なかでも青木正美先生の発言は、SNSを通して50万回以上再生されるほどインパクトがあるものだった。 「(東京五輪・パラリンピックは)人類の生命維持に対する最大の冒涜です。会場を全て無観客にしようがしまいが、選手や関係者が世界中から一カ所に集まるなど、パンデミック下に絶対にやってはいけないことです。もしも、このままオリンピックを開けば、東京は巨大なエピセンターになってしまいます。そして選手や関係者がウイルスを自分の国に持ち帰れば、それによって多くの人命が失われることでしょう。今、私たち人類がしなければならないことは、みんなで集まってスポーツをすることではありません。お互いできるだけ離れて、パンデミックを終息させ、人類の命を守ることです」  日本女医会は来年で120周年を迎える世界でも最も古い女医会の一つである。明治時代に医師を目指した女性の多くは産科医だった。夫に性病をうつされ、避妊もできず子どもを何人も産むことを強いられるような時代に、女性医師たちが女性たちのために自ら医学の道を切り開いた。医学部入試で女性を排除していた時代からは考えにくいが、1940年の東京五輪が決定した1930年代は、日本はアメリカに次いで世界で2番目に女医の多い国で、女性医師の育成に女性たちが力を注いできたのだ。そういう歴史がある日本女医会の医師2人が、個として名と顔を出し、パンデミックで女性たちがより追い詰められている事実、そして人類最大規模のイベントをこのような状況でやるべきではないことを明確に世界に発信したことの意味を噛みしめたい。この国の性差別に、怒り闘い、医師としての倫理観で闘おうとする横顔は、明治時代から変わらないのかもしれない。  ところで、記者会見が終わった後に、ちょっとしたことが起きた。その場にいた女性が青木先生に向かってこんなことを言ったのだ。 「青木先生みたいに、はっきりと言ってくださる男性のお医者様はいないのですか?」  悪気のない明るい調子だったこともあり、私は一瞬で凍りついてしまった。同じことでも女性ではなく男性が言ったほうが聞かれる、重みを与えられる、影響がある……そんなことがいくらでもある社会だ。だからその女性も無邪気に「青木先生みたいな男性がいたらいいのに」など、全女性に失礼なことを言ってしまったのだろう。とっさに隣にいた友人2人が全く同じことを言った。 「いないから、こんな社会になったんでしょう!!」  ですよね。自民党と親しすぎる男性中心の日本医師会はもちろん、個として政府の方針に抗議し、意見を述べてこられた男性医師がこのコロナ禍の1年間にどれほどいたでしょう?  東京五輪・パラの強行に唯一良かった点を見いだすとしたら、今の日本の問題がかなり露呈したことかもしれない。特にジェンダー問題のひどさは激しくあらわになった。変えるしかない、変わるしかない、そうしなければ命に関わる。そういうことが鬼気迫る形で目の前に現れたことが、東京五輪・パラ強行の唯一の意義だと思いたい。 ■北原みのり(きたはら・みのり)/1970年生まれ。作家、女性のためのセックスグッズショップ「ラブピースクラブ」代表
おんなの話はありがたいピックアップフェミニスト北原みのり東京五輪
dot. 2021/07/21 16:00
瀬戸内寂聴が想い出す岡本太郎の誘い「そろそろうちへ来れば?」
瀬戸内寂聴が想い出す岡本太郎の誘い「そろそろうちへ来れば?」
瀬戸内寂聴(せとうち・じゃくちょう)/1922年、徳島市生まれ。73年、平泉・中尊寺で得度。著書多数。2006年文化勲章。17年度朝日賞。単行本「往復書簡 老親友のナイショ文」(朝日新聞出版、税込み1760円)が発売中。 横尾忠則(よこお・ただのり)/1936年、兵庫県西脇市生まれ。ニューヨーク近代美術館をはじめ国内外の美術館で個展開催。小説『ぶるうらんど』で泉鏡花文学賞。2011年度朝日賞。15年世界文化賞。20年東京都名誉都民顕彰。(写真=横尾忠則さん提供)  半世紀ほど前に出会った98歳と84歳。人生の妙味を知る老親友の瀬戸内寂聴さんと横尾忠則さんが、往復書簡でとっておきのナイショ話を披露しあう。 *  *  * ■横尾忠則「若い人は意欲を抱いてがんばって下さい」  セトウチさん  往はやっぱりテーマが欲しいです。先週に続いて今週も担編さん(まだ馴染めませんが)の鮎川さんに打診したら、こんなオファーが届きました。 「制作の意欲はどこから湧いてくるのか?」です。湧くということは泉のように底から噴き出すように現れるのが意欲なんですかね。そーいう意味では僕ではなく岡本太郎さん向きのテーマですね。太郎さんならきっと小さい眼を大きく見開いて両手を拡げて、「意欲とは戦いだ! 社会との戦いではなく己との戦いだ! 自己に克って初めて社会を征服するんだ。意欲こそ若者の特権だ。意欲なくして芸術は存在しない」とかなんとか、わけのわからんことを言われて、疲れますよね。では、もう少し疲れない禅僧に聞いてみましょう。 「意欲などというものは本来存在しないものです。在ると思うから存在するのです。意欲は去来する雑念です。そんな非存在にあれこれ振り廻されるな。喝!」でハイオシマイ。いずれにしても意欲は公案みたいなもので、その存在がわかりません。  若い頃は岡本太郎方式の意欲が通じますが、僕のように男性の平均寿命81歳を4年も越えた人間には意欲や好奇心は必要ないです。話は大きく飛びますが、人類は意欲を持ち過ぎた結果、もしかしたら文明によって崩壊するかも知れません。コロナだって追求していくと人間の過度な物質的欲望の結果、あんなものを作ってしまったのかも知れませんよ。  人間が老化するのも自然の摂理で実にうまくできていると思います。老齢と共にギラギラなるのではなく、むしろヘナヘナになって、非意欲的存在になっていくのが自然です。と同時に老齢が悟らせるのです。人間に本来備わった意欲的な欲望が退化するように神だか宇宙の摂理がそうさせてくれているのです。そのことに気づくにはやはり老齢にならなきゃわかりません。まだ意欲が沸々と煮えたぎっている間は欲望の虜のままで、悟りはまだまだ遠いです。  即身仏が次第に死に近づいていくように、老人もそのように死を迎えるのが一番理想的です。心身共に脱落して、ハイ完成です。意欲のある間は人間は完成しません。座禅をするとか滝行のような修行をしなくても人間は寿命を生き切れば自然に悟性を迎えて、うまく成仏できるようになっているはずです。そのためには若い内にうんと意欲を吐き出し切って、老齢と共に空っぽになるように人間はもともと作られているように思います。年を取ってまだギタギタ燃えるような意欲の人は悟れないままあちらの世界に行きます。  肉体の衰退が上手に意欲をコントロールしてくれるので、自然のなりゆきにまかせておけばいつの間にか意欲も消滅して、カルマも知らぬうちに解脱してうまい具合に死ねるのです。ついセトウチさんの仏教界に足を踏み入れて越境行為をしてしまったので、「頭(ず)が高い!」と叱られそうです。  まあ、そんなわけで意欲も好奇心も少しずつなくなって、僕の絵も若い人には実に頼りない絵に見えるでしょうね。そんな僕の絵を見て、若い人は奮起して意欲という大志を抱いてがんばって下さい。  合掌。 ■瀬戸内寂聴「『意欲』なんて感じたことはありません」 「意欲」についての考察は、私には不向きです。なぜなら、私は、わざわざ自分の躰の中から「意欲」をつかみだしたことも、そうっと網ですくいだして、現実の生活に利用した覚えも一切ないからです。  でも私は人から、「いつも意欲に満ち溢れているようにお元気ですね」と言われます。体調が老衰の一途をたどる以前は、我ながら、私はいつも人より元気に見え、常に張り切っていたものです。「いつ逢っても、意欲満々に見え、気持がいいですね」とよく言われたものです。でも、ヨコオさんのおっしゃるように、「意欲」なんて、自分の体内に湧き出てくる感覚を、一度も感じたことはありません。  ただし、いざ原稿用紙に向かって、一字一字マス目の中に、万年筆の字を埋め始めると、自然に、泉の水が湧き出るように、書きたいものが噴き上がってきて、ペンが走り出すのです。この「老親友の文通」も、前もって、今日は何を書こうなど準備したことはなく、原稿用紙に向かいペンを握って、太郎センセと、ヨコオさんの顔を並べて思い描くと、文章が自然に湧いてくるのです。そこは熱い意欲の影など感じたことはありません。実に自然に文章が、それこそ湧き出るのです。  こんなことを書くと、この原稿の担当の鮎川さんは「そんな意欲も湧かない文章は、いただきかねる」と、腹を立てるかもしれない。でも、決していい加減になんか書いたことはなく、結構神経質でメンドウなヨコオさんに、すらりと受け取ってもらえるよう、文章を書いています。  今度のヨコオさんのお手紙の中の岡本太郎さんの意欲の説明の描写は、思わず笑ってしまいました。あんまり、ありし日の太郎さんの様子にそっくりだったからです。  今、思い出せば、あれは、ちょうど、前の東京オリンピックの後のことで、太郎さんの「太陽の塔」が制作中でした。その頃、私はかの子の伝記を書き、太郎さんと親しくなり、よく家に呼ばれたり、自分から遊びに行ったりしていました。いつでも若い学生が、半裸で、庭でオブジェを作っていました。その横で烏のガア公が飛んだり、鳴いたりしていました。  東京女子大の後輩の平野敏子さんが、太郎さんの優秀な秘書として、同居していて、太郎さんの名文のすべてを書いていました。誰の目にも、平野さんは秘書というより、太郎さんの優秀な妻女としか見えませんでした。  そんなある日のこと、太郎さんが私に話しかけました。 「きみも、そろそろうちへ来れば? 平野くんの仕事が多くて大変なんだよ。いつも和服だから畳がいいかい? 四畳半と六畳、どっちがいい?」  私はあわてて、やっと作家として踏み出したばかりだから、先生の手伝いは無理だと断ると、「バッカだなあ。つまらない小説で、わずかな原稿料もらって、何になる? それより天下の天才の岡本太郎の秘書として後世に名を残す方が、ずっと素晴らしいのに!」  と叱られました。あの時、私の意欲が太郎さんの秘書にちらりとでも向いていたら、どうなっていたことでしょう。「太陽の塔」を通り過ぎる度、私は今でもちらりとそのことを想い出します。では、また。 ※週刊朝日  2021年7月23日号
週刊朝日 2021/07/17 16:00
女子の輪に「壁」を作ってしまう…ゆる~い相づちが心を開くコツ しいたけ.さんがアドバイス
しいたけ. しいたけ.
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占い師、作家 しいたけ. ※写真はイメージ(gettyimages)  AERAの連載「午後3時のしいたけ.相談室」では、話題の占い師であり作家のしいたけ.さんが読者からの相談に回答。しいたけ.さんの独特な語り口でアドバイスをお届けします。 *  *  * Q:職場でのお昼の時間が苦痛です。女子はお弁当を一緒に食べますが、話が“低俗”で疲れてきます。私は本を読んだり勉強したりしていて、それなりに知性は高いと自負しています。話が釣り合う人が周りにいないのは私がナルシストで傲慢な考えをもっているからでしょうか。私の心の中の指針をぎゅぎゅっと訂正していただけないでしょうか。(女性/事務職/47歳/さそり座) A:一つの笑い話として聞いていただければと思うんですが、僕は昔、恋愛についてすごく勉強したかったんです。恋愛という概念を知るためには読まなきゃいけない本が何冊かあって、その参考図書の一つがスタンダールという人の『赤と黒』という本でした。でも、当時の僕にはその主人公がいわゆる中2病みたいな超面倒くさい人に感じられて、途中で読み進めることができなくなってしまったんです。なぜかというと、自分と重なったから。これは僕の中で「スタンダールショック」としてしばらく引きずりました。それでやっと気づいたのが、恋愛って学習じゃ学べないんだっていうこと。参加しなきゃいけないんだなって。  恋愛もそうだしもしかしたら生きること全般に言えるのかもしれませんが、行き詰まりを感じたときや答えが出ないときって、「自分から心を開かなければいけないタイミングがきたのかもしれない」と僕は思っているんです。  僕自身がそういう人間だったからこそ思うんですけど、やっぱり「壁」ってしつこいです。自分はこれだけ頑張っているのに、好きな子を笑わせるためのギャグも練習しているのに(笑)、評価されない。周りの適当な人たちが褒められていると悔しかったし、絶望感を感じました。  でも今思えば、研究熱心ではあったけれど唯一僕がやっていなかったのが「心を開く」ことだったんです。心の開き方がわからなかったから。  そんな「心を開かなかった歴」が長い僕がおすすめする心の開き方があります。それは、心の中で言う相づちを「ほえー」にすること。 「ほえー」って言うと、気が抜けてバカっぽいんですが、実はかなり心を開いている状態です。反対に、コミュニケーションに準備がいる人は心を閉じてしまっている人。ぎゅっと固まって、相手が言ってきたことに対して面白いことを返さなきゃいけないとか、自分に聞いてくれたらもっと面白い答えが返せるのにと思っている。相手にしてみれば、武装している雰囲気を感じ取って、接しづらい人に見えてしまうことがあります。  まずは心を開くぞって決めるだけでもいいと思います。  さそり座は武士性を背負っているところがあって、プロ意識がすごいしストイックです。半面、PRはそこまでうまくない。認めてくれる上司や環境によってかなりパフォーマンスが左右されます。さそり座の天敵は「調子がいいやつ」。でも天敵から学ぶことができたとき、人は大きく成長できるのかもしれません。 しいたけ./占い師、作家。早稲田大学大学院政治学研究科修了。哲学を研究しながら、占いを学問として勉強。「VOGUE GIRL」での連載「WEEKLY! しいたけ占い」でも人気 ※AERA 2021年7月19日号
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AERA 2021/07/16 07:00
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プーチン大統領の出現は世界の様相を一変させた。 ウクライナ侵攻、子どもの拉致と洗脳、核攻撃による脅し…世界の常識を覆し、蛮行を働くロシアの背景には何があるのか。 ロシア国民、ロシア社会はなぜそれを許しているのか。その驚きの内情を解き明かす。

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