新たに3人の逸材がデビュー 今季も「ロシア勢」が女子フィギュアを席巻する予感
今季からシニアデビューのカミラ・ワリエワ(写真/gettyimages)
昨季の世界選手権でメダルを独占したロシア女子は、北京五輪シーズンとなる今季も世界を牽引しそうだ。
ロシアで9月11・12日に行われたテストスケートでは、五輪代表候補の有力選手が今季のプログラムを披露した。試合形式で行われるこのイベントでは点数が明らかにされないが、ロシア女子のレベルの高さを改めて感じさせる内容となった。
昨季の世界選手権で優勝したアンナ・シェルバコワは、4回転には挑まなかったものの、完成度の高い演技を披露。世界選手権銀メダリストのエリザベータ・トゥクタミシェワはショート・フリー共にトリプルアクセルを組み込み、彼女らしく妖艶なプログラムを滑った。また世界を驚かせたのは世界選手権3位のアレクサンドラ・トゥルソワで、フリーで4種類5本の4回転を跳び、すべて着氷。さらに一昨季グランプリファイナル女王のアリョーナ・コストルナヤもトリプルアクセルを成功させ、昨季の不調から復活しつつあることをうかがわせた。
昨季までに国際試合で活躍していたメンバーだけで豪華すぎるほどだが、さらにロシアには今季シニアデビューする15歳の逸材が3人おり、テストスケートでもポテンシャルの高さを印象づけている。
昨季ロシア選手権で5位に食い込んだマイア・フロミフは、4回転を跳ぶ。タンゴに乗って滑ったテストスケートのフリーでも、4回転―3回転のコンビネーションジャンプを着氷させた。
ダリア・ウサチョワは、大技はないものの完成度の高い演技が強みで、昨季のロシア選手権で4位の成績を残している。テストスケートで披露した映画『The Greatest Showman』の曲『Never Enough』を使う新ショートプログラムでは、ドラマチックな歌声を品のあるスケーティングで表現した。
そして昨季ロシア選手権2位のカミラ・ワリエワは、ショートプログラムでトリプルアクセルを着氷させ、フリーではトリプルアクセルと4回転に挑んだ。フリーに組み込んだ2種類3本の4回転のうち着氷させたのは1本のみだったが、トリプルアクセルは両手を上げて跳び、きれいに決めている。
そしてフリーの曲は『ボレロ』。1984年サラエボ五輪のアイスダンスでジェーン・トービル&クリストファー・ディーンが滑りジャッジ全員が芸術点で満点を出した、フィギュアスケートにおいては特別な意味を持つ名曲だ。選択に勇気が要る曲に、ワリエワは昨季から挑んでいる。昨年末のロシア選手権で披露した演技は、放送席にいた2002年ソルトレイクシティ五輪チャンピオンのアレクセイ・ヤグディンが感涙するほどの出来栄えだった。長い手足を生かした美しい所作と滑りには、15歳という年齢を忘れさせる豊かな芸術性がある。
今季からシニアに上がるワリエワ、ウサチョワ、フロミフは、共にエテリ・トゥトベリーゼコーチ門下で切磋琢磨している。継続してトゥトベリーゼコーチに師事しているシェルバコワに加え、昨季はエフゲニー・プルシェンココーチの指導を受けていたトゥルソワとコストルナヤも、今季は古巣に帰ってきた。優秀な先輩スケーターも加え、普段の練習から国際大会並みにレベルの高い顔ぶれで練習していることが、彼女たちの強さの理由なのだろう。
精鋭が集う“エテリ組”に初の五輪出場を目指す24歳のトゥクタミシェワも加わり、北京五輪代表の座をめぐる熾烈な争いが予想されるロシア女子。激戦を勝ち抜いた3人が、そのまま北京五輪のメダリスト候補になることは間違いないだろう。(文・沢田聡子)
●沢田聡子/1972年、埼玉県生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後、出版社に勤めながら、97年にライターとして活動を始める。2004年からフリー。シンクロナイズドスイミング、アイスホッケー、フィギュアスケート、ヨガ等を取材して雑誌やウェブに寄稿している。「SATOKO’s arena」
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2021/09/24 18:00