矢部万紀子
“リアルアナ雪” 眞子さんが突きつけた女性皇族の「存在の曖昧さ」と「公と私」
10月26日、小室眞子さんと圭さんは都内ホテルで結婚の記者会見を行った。会見は約12分で終了した(c)朝日新聞社
10月26日、小室眞子さんが結婚、皇籍を離脱した。妹の佳子さまは26歳、愛子さまは今年12月、20歳になる。女性皇族という存在の曖昧さと、その「公」と「私」という問題が突きつけられている。AERA 2021年11月8日号から。
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リアルアナ雪──SNSの世界では、そう命名されたそうだ。10月26日、秋篠宮家を出発する眞子さまと妹の佳子さまとのハグのことだ。映画「アナと雪の女王」に重ね、ネットでは「尊すぎる」などと感想が飛び交ったという。儀式なし、一時金辞退、そして「複雑性PTSD」と引き換えのように実現した結婚だった。旅立ちの最後のハグ、眞子さまは一生忘れないだろう。
さて「眞子さま」はここまで、ここからは「眞子さん」とする。26日、眞子さんは小室圭さんと結婚、2人で記者会見に臨んだ。眞子さんはその席で、「婚約に関する報道が出て以降、圭さんが独断で動いたことはありませんでした」と述べた。「お母様の元婚約者の方への対応」「留学」を例に、「私がお願いした」と言い切った。
これまで私は、眞子さんを「優等生」だと思っていた。「天皇陛下(現在の上皇陛下)の初孫」として生まれたのだから当然、と。が、この日は全く違った。
「結婚を主導してきたのは私」と表明すると同時に、小室さんへの批判を「一方的な憶測」「誤った情報」「謂(いわ)れのない物語」とし、それらに抱いた感情を「恐怖心」「つらく、悲しい思い」と強い言葉で表した。
■人生は自分が決める
眞子さんは吹き荒れる逆風に、心の傷を負った。それでも結婚を貫く強さがあり、最後に「主導」を表明した。「自分で決めてきた」という説明であると同時に、「これからも自分の人生は自分が決める」という宣言のようにも感じられた。
眞子さんの結婚を通し、「皇室の『公』と『私』」が注目されるようになった。公の存在ではあるが、天皇も皇族も一人の人間。そのことに国民がどう向き合うかという問題だ。
眞子さんの結婚について、秋篠宮ご夫妻と共に佳子さまもコメントを発表した。中に「結婚に関して、誤った情報が事実であるかのように取り上げられたこと、多くの誹謗中傷があったことを、私もとても悲しく感じていました。そのような中でも、姉と小室圭さんがお互いに支え合う姿を近くで見てまいりました。本日、2人が結婚できたことを嬉しく思っております」という一節があった。
佳子さまは、「本音」を明かすのが上手だ。批判するというより、前向きに伝える。姉の結婚を応援する気持ちもはっきり表明していた。そこから、佳子さまの「皇室を出たい」という気持ちを勝手に読み取っていた。眞子さんと共有する気持ちだろう、と。姉の結婚を通し、佳子さまは「公と私」の問題を考えに考えたはずだ。これから佳子さまは、どうするのだろう。
26日朝、秋篠宮邸を出発するにあたって、妹の佳子さまと抱き合う小室眞子さん(c)朝日新聞社
■女性宮家と佳子さま
皇室には「人手不足」問題もある。眞子さんの結婚で、皇室の構成員は17人になった。30歳未満は、佳子さまと愛子さまと悠仁さまの3人だけ。だから、女性皇族が結婚後も皇室に残る「女性宮家」が議論されている。
実現すれば、佳子さまが第1号となるのが自然な流れだろう。それを佳子さまが望むのか、気がかりでならない。「女性宮家」が実現しても、女性皇族という存在の曖昧(あいまい)さは解消されそうにないから、余計にそう思う。そもそも女性皇族は、「天皇及び皇族以外の者と婚姻したときは、皇族の身分を離れる」(皇室典範12条)としか定められていない。男系男子が継承する皇室で何をする存在なのか。
眞子さんは会見で、「皇族としての仕事を、自分なりにできる限り大切に果たそうと努めてまいりました」と語った。そう、眞子さんは公務に勤しむ女性皇族だった。初の単独公務は学習院女子高等科2年生の2008年。15年、英国のレスター大学大学院を修了すると、すぐに日本テニス協会名誉総裁に就任。同年12月にエルサルバドルとホンジュラスを訪問、以後中南米を6カ国、ブータンと合わせ計7カ国を公式訪問している。
■公務邁進型の皇族像
この「成人前から開始」「学業終了後に本格化」という公務邁進(まいしん)型女性皇族像は、天皇陛下の妹、黒田清子さんが築いた。清子さんは学習院女子高等科の3年間、両親(上皇陛下と美智子さま)と全国高校総体に臨席、学習院大学1年で初の単独公務、卒業3年後のブラジルを皮切りに、36歳で結婚するまで14カ国を公式訪問した。
04年、35歳の誕生日にあたって清子さんは、「公務は常に私事に先んじるという陛下のご姿勢は、私が幼い頃から決して崩れることのないものでした」と文書で述べている。「私より公」が清子さんの規律だ。ただ、こうも述べている。「内親王という立場は、先行きを考えるとき、将来的にその立場を離れる可能性がどうしても念頭にあるため、(略)継続的な責任ある立場に就いたりすることは控えてきたということはあるかもしれません」(02年、33歳の誕生日の文書回答)
愛子さまは12月1日、20歳の誕生日を迎える。会見で何を語るかが注目される(宮内庁提供)
清子さんが控えた「責任ある立場」に就く女性がまだ少ないから、日本のジェンダーギャップ指数は21年も120位。それを「とても残念なことです」と語ったのは佳子さまだ。10月10日、「国際ガールズメッセ」でのビデオによる挨拶だった。「今後、ジェンダー平等が達成され、誰もがより幅広い人生の選択肢を持てるようになることを、自らの可能性を最大限いかす道を選べるようになることを、それが当たり前の社会になることを切に願います」と述べた。それが佳子さまの時代感覚だ。
そして天皇陛下の長女愛子さまが今年12月1日、20歳になる。成人にあたっては、記者会見が恒例になっている。愛子さまはそこで、何を語るだろうか。
■困難は国民全体のもの
「成人前からの公務開始」という清子さん、眞子さんの路線を愛子さまは取っていない。母の雅子さまが「適応障害」という病を得て、長く苦しんでいることが影響しているかもしれないと想像する。令和になってすぐに「コロナ禍」が広がったという事情も大きいだろう。そもそも皇室全体で、国民と直接触れ合う機会が激減している。
「愛子天皇待望論」がメディアから消えることがないのは、悠仁さまは「次男の長男」で愛子さまは「長男の長女」という“ねじれ”があるからだ。それなのに政府は、「女性、女系天皇」問題の議論を避けている。
怠慢ではないだろうか、と書いたところで眞子さんに戻る。
会見の最後、眞子さんはこう言った。「今、心を守りながら生きることに困難を感じ傷ついている方が、たくさんいらっしゃると思います。周囲の人のあたたかい助けや支えによって、より多くの人が、心を大切に守りながら生きていける社会となることを、心から願っております」
昨年11月、眞子さんは「お気持ち」を発表、「結婚は、私たちにとって自分たちの心を大切に守りながら生きていくために必要な選択です」と訴えた。この時に感じた「心を大切に守りながら生きることの困難さ」を眞子さんは国民全体のものと捉えていた。そして、「心を大切に守りながら生きていける社会」となることを望んでいた。
眞子さんはこれまでも今も、「公」と共にある。そう思うと、とても切ない。(コラムニスト・矢部万紀子)※AERA 2021年11月8日号
AERA
2021/11/02 08:00