宇野昌磨と坂本花織が「金」、ペアは初の「銀」 メダリストが語る来季への決意
宇野昌磨/合計312.48点で、男子シングルの金メダルを獲得した。SP109.63点、フリー202.85点もともに1位だった(International Skating Union via Getty Images)
フィギュアスケートの世界選手権が3月下旬、フランス・モンペリエで開かれた。日本勢が男女シングルで金メダルを独占、ペアが初の銀メダルに輝くなど、歴史に残る大会となった。AERA 2022年4月11日号の記事を紹介する。
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自身6度目の世界選手権で、ようやく頂点をつかんだ。しかも、ショートプログラム(SP)、フリーともに自己ベストを更新し、総合得点は世界歴代3位。なのに、宇野昌磨(24)は意外なほど淡々としていた。
「優勝は、僕のゴールではない。ゴールはもっと成長した先にあるものだと思っています」
それでも、フランスで優勝した事実には特別な思いがあった。
「(この国は)僕の分岐点。この舞台で素晴らしい成績を取れたことに感謝しかない」
■分岐点から2年4カ月
24歳の感情を理解するには、少し時間をさかのぼらなければならない。
2018年平昌五輪で銀メダルに輝いた後、宇野はもがいた。「とらわれたくない」と言っていた結果を意識するようになり、スケートが苦しいものになった。
「終わりに向かってスケートをしている印象だった」
再生のきっかけをくれたのが19年秋、グランプリ(GP)シリーズのフランス杯だ。計5度転倒し、GPシリーズ過去最低となる総合8位。涙を流した。
SPを終えた時、「もうすぐ引退かな」と覚悟したという。だが、続くフリーでもミスが相次いだ時、殻を破った。
「ずっと失敗を恐れてきた。けど、失敗してみるとそこまで大きなことじゃなかった。どうしてそんなに恐れていたのか」
どん底まで沈んだことで、「それでもスケートが好き」というシンプルな思いを確かめることができたという。
あの分岐点から2年4カ月。今、「この先どんなことをなすことができるか、期待を込めてスケートをしている」と語る。再出発の地、フランスのリンクには今回、あの日とは見違えるような宇野がいた。フリー終盤のステップでは、演技中だというのに笑みさえこぼれた。
めざすゴールは、ずっと先。
「来季、成績が落ちてしまうくらい新たな挑戦をして、もっと成長したい」
滑る喜びとともに、これからも突き進む。
坂本花織/合計236.09点で、女子シングルの金メダルを獲得した。SP80.32点、フリー155.77点もともに1位だった(International Skating Union via Getty Images)
■来年はノーミスで優勝
鍵山優真(18)は2度目の世界選手権を北京五輪銀メダリストとして迎えた。
「自分の期待値がすごく上がったというか、もっといいものができると自分で思い込んじゃっていた」
SP2位で迎えたフリー。
「緊張で力が入らなくて」
トリプルアクセル(3回転半)が1回転半になるなどジャンプでミスが出た。一方で、SP、フリーともに4回転サルコーで出来栄え点(GOE)を4点台に乗せるなど、確かな成長も見せた。
初出場だった昨年の大会、北京五輪と銀メダルが続く。
「徐々に悔しく思えてきたのが、一つの成長かなと思います」
世界一への思いも強くなった。
「次は絶対に取りたい。来年はノーミスで優勝したい」
埼玉で開催される1年後の世界選手権で目指すものがはっきりした。
■2位に18点以上の大差
前回大会で表彰台を独占したロシア勢が不在の女子は、北京五輪銅メダルの坂本花織(21)が優勝候補の大本命に挙げられた。
「(五輪後は)完全に燃え尽きた。何を目標に頑張ればいいのかと、すごく考えて悩んでしまった」
調子はどん底だった。
それでも「五輪がまぐれだと言われたくない」という思いが、自分の背中を押した。大会直前にプログラムをノーミスで滑れる状態に戻した。
SPは初の80点台。得点を知ると、思わず立ち上がった。
「『未知の世界へようこそ』みたいな感じ」と喜んだ。
フリーは優勝の重圧に加え、2位以内に入らなければ、来季の日本の世界選手権の出場枠が2に減る状況での出番となった。
「怖くなりすぎて」
演技前に泣いた。中野園子コーチから「必死ほど強いものはない」と励まされ、リンクへ向かった。
気持ちを切り替えて、
「最後の最後まで全力疾走で走り抜け、みたいな感じで」
スピード感あふれるスケーティングで不安を吹き飛ばした。ジャンプはすべて着氷。自己ベストを更新し、2位に合計で18点以上の大差をつけて初めての金メダルをつかんだ。
「最後の最後までやりきれて、このメダルにはすごい価値がある」
表彰台ではうれし涙を流した。
鍵山優真/合計297.60点で、2月の北京五輪に続く銀メダル。SP105.69点、フリー191.91点もともに2位だった(International Skating Union via Getty Images)
世界女王は日本勢では史上6人目。2014年大会を制した浅田真央以来だ。
「レジェンドの方々の次に、というのは何かまだしっくりこない」
と笑いながらも、
「日本の女子を引っ張っていけるような存在になっていきたい」
今後は4回転ジャンプの習得も視野に、さらなる進化を目指す。
ペアの三浦璃来(20)、木原龍一(29)組は北京五輪を終えてから苦しんだ。
「疲れが抜けるのにすごく時間がかかった。気持ちも1回切れてしまった」
■合言葉はフランス旅行
2人で決めたのは「シンプルに楽しめばいい」。合言葉は「フランス旅行」。笑顔を心がけた。
SP3位で臨んだフリーでは3連続ジャンプが2連続になるなどした。
「滑りきらなきゃという思いが先立ってしまった」(三浦)
それでも、リフトやスピンなどで高い評価を得た。
北京五輪の上位5組が出場しなかったとはいえ、日本勢歴代最高の銀メダルで飛躍のシーズンを締めくくった。
「成長しているのを実感できたが、少し悔しい。これが来季につながると思う」(木原)
「メダルはうれしいけど、まだそこに値しないと思っている。もっと自分たちは上にいける」(三浦)
ここから、さらに進化する。
(朝日新聞スポーツ部・吉永岳央/岩佐友)※AERA 2022年4月11日号から抜粋
AERA
2022/04/08 11:00