今、認知症診療の現場で問題になりつつあることの一つが、薬の処方だ。適切な薬が処方されていなかったり、認知症患者では飲めないほどの多数の薬が処方されていたりする。こうした不適切な診療により本来の認知症では起こらない症状が現れ、患者や家族を苦しめる。

 認知症の治療では、認知機能の低下や判断力・実行力の低下といった中核症状に対し、ドネペジル、ガランタミン、リバスチグミン、メマンチンという4種類の抗認知症薬が認められている。「認知症を専門にする医師と、一般の医師との間には使い方に大きな差がある」と話すのは、認知症診療を専門とする、浴風会病院(東京都杉並区)精神科の須貝佑一医師だ。

 認知症患者が462万人にものぼる今、専門外の医師が認知症の患者を診る機会も出てきた。須貝医師によると、自身が主治医となっている患者に認知機能低下などの症状が現れた場合、専門の医療機関に紹介するのは一部で、多くはそのまま抗認知症薬を処方しつつ自分の施設で診続けているという。

「認知症の治療薬は4種類しかなく、使い方もさほどむずかしくない。添付文書にある用法・用量を守れば、専門でなくても診られると思っている医師がいることは確かです。しかし、認知症は個人差の大きい病気。薬の効き方が一人ひとり違い、同じ量でも効きすぎる場合もある。経験や知識に基づく、きめ細かい診療が必要なのです」(須貝医師)

 たとえば、抗認知症薬の副作用には、手足が震える、ぼーっとする、足元がふらつくといった症状がある。須貝医師は患者にこうした症状があったときは、用量を減らす、あるいは別の抗認知症薬に切り替えるなどの対応をとる。

 ところが、専門的な知識や経験がないと、副作用と認知症の中核症状の悪化とを区別できない。その結果、別の症状が現れたと誤解し、量を増やしたり、その症状を補填する別の薬を投与したりしてしまうのだ。

 では、なぜ専門ではない医師が認知症を診るのか。ある認知症専門医は、「今年の診療報酬改定で糖尿病、高血圧症、脂質異常症、認知症のうち二つを診ると加算が取れる『地域包括診療加算』がついたことで、かかりつけ医が認知症を診ましょうという雰囲気になっている」と、その背景について解説する。

 かかりつけ医の本来の役割について、愛媛大学病院認知症疾患医療センターの谷向知(さとし)・副センター長はこう話す。

「かかりつけ医は、現在治療している高齢の患者さんの様子をみて『この人は認知症かもしれない』と気づくことが期待されます。また、糖尿病や高血圧などの持病がある認知症患者さんの身体面をしっかり診ることが、認知症の進行を遅らせることに大いに役立っているという点でも、かかりつけ医の果たす役割は非常に大きいと思います」

週刊朝日  2014年12月5日号より抜粋