がんのなかで最も死亡者数が多い肺がん。喫煙との関係が深いがんではあるが、非喫煙者や女性に多い腺がんも増えている。早期のがんは手術が可能だが、進行すると薬物や放射線による治療を行う。

 早期肺がん治療の第一選択は手術だ。しかし、超高齢化社会を迎え、年齢、体力、他の病気があるなどの問題と、手術を受けたくない人の場合、放射線治療が選択される。

 昨今、放射線治療は進歩を遂げ、患部の腫瘍をピンポイントで狙い、健康な組織への侵襲を少なくする高度放射線治療が普及してきた。

 なかでも注目されているのが、粒子線治療だ。高エネルギー粒子の流れを使った放射線治療の一種だ。従来のX線治療とは異なり、標的とする患部で最もエネルギーを発揮し、効果的に腫瘍を粉砕することが可能だ。粒子線治療には「陽子線治療」と「重粒子線治療」とがあるが、早期の肺がん治療により向いているのが陽子線治療だ。

「陽子線治療は、水素という最も軽い元素の原子核を加速器によって加速し、患者さんの患部へ到達させ、がん細胞にダメージを与えます。重粒子線に比べ正常組織のダメージが少ないため、照射範囲が広く、正常な組織が多く含まれるような放射の場合にも陽子線治療は向いています」

 そう説明するのは、国立がん研究センター東病院粒子線医学開発分野長の秋元哲夫医師だ。現在、肺がんでは非小細胞がんのI、II期に適応できるが、同院では、局所進行肺がんにも実施している。

「適切な治療を受けるには、腫瘍内科などの関連の専門医との協力態勢があり、医学物理士などのスタッフも充実している施設を選ぶことが大切です」(秋元医師)

 患者への負担が少ない治療だが、現時点では、体育館ほどの治療スペースが必要だ。さらに先進医療のため、患者の自己負担が288万3千円(一つの治療部位あたり)と高額になるのも課題だ。

「今後は治療技術の進化とシステムの小型化でコストを抑えることが陽子線治療普及のカギです」(同)

 治療技術では、腫瘍の形に沿って治療できる「スキャニング照射法」が開発された。近々、前立腺がんの治療に応用される予定だ。肺がんにおいても数年後の実用化が見込まれている。

週刊朝日 2013年12月20日号