肩こりや腰痛など、病院で診てもらうほどでもないちょっとした不調を、マッサージや整体で改善している人も多いだろう。しかし、その施術で症状が悪化したり、しびれや痛みやマヒが出たりするなどのトラブルも起こっている。

 昨年8月に発表された国民生活センターの調査によると、マッサージや整体などの施術を受けて健康危害が発生したとの相談は年々、増加傾向にある。相談した8割の人が医療機関を受診、そのうち3割は治療に3週間以上を要していた。

 同センターによると、今年4月から11月13日までの相談件数は754件にのぼり、昨年度の1266件とほぼ同じペースだ。主な危害部位は、腰部・背部(おしり)が最も多く、胸部・背部、首と続く。男女別では男性より女性の割合が高く、年代では40代が1位で、30代、50代の順となっている。

 マッサージや整体などによる健康被害は、いまに始まったことではない。厚生労働省は1991年6月に、医業類似行為(あん摩、指圧、マッサージ、鍼灸=しんきゅう)、カイロプラクティックなど)に対する取り扱いについて通知を出している。そこには頚椎に対して急激な回転伸展操作を加える「スラスト法」は、体に損傷を加える危険が大きいことから、「禁止する必要がある」と記されている。

 医業類似行為の健康被害問題に取り組む喜多整形外科(大阪府守口市)の喜多保文医師は、頚椎や脊椎に力を加えることの危険性をこう指摘する。

「背骨には多くの神経が通っているので、整形外科医でもとくに頚椎は慎重に扱います。医学的知識に基づいて教育や訓練を受けたこともない人が触る場所ではない。そもそも人間の手で押すだけで関節が調整できるということは、医学的、物理的にあり得ません」

 市立岸和田市民病院リハビリセンター長の浜西千秋医師は別の視点から、こうした療術系の医業類似行為による危険性を指摘する。

「暴力的な療術で障害を受けることも問題ですが、医療を受けるべき病気や変形があるにもかかわらず、施術を漫然と続けられて病気が放置され、悪化・進行することもあります」

 実際、悪性の腫瘍やがんの骨転移が見逃され、何カ月も電気治療を受け続けたことで手遅れとなったケースや、骨がもろくなる骨粗鬆症があるにもかかわらず強くひねられたり揉まれたりして、背骨を骨折したり、手足がマヒしたりしたケースがあるという。

週刊朝日 2013年11月29日号