頭痛や腰痛、肩こりなどをやわらげる療法として用いられる「整体」や「カイロプラクティック」。けれど、その中身や違いがよくわからないまま、なんとなく施術を受けている人も多いのではないだろうか。

 カイロプラクターの団体である日本カイロプラククーズ協会(JAC)の理事長で東京カイロプラクティック院長の竹谷内(たけやうち)啓介さんは、こう説明する。

「混同されがちですが、整体とカイロプラクティックは本来、似て非なるものです。しかし、残念ながら巷には両方の名称を掲げている店舗も多く、同一視しているところがほとんどだと思われます」

 カイロプラクティックは、今から100年ほど前にアメリカで創始された代替医療だ。骨格、とくに背骨のゆがみを、手や器具を用いた独自の手法で調整(アジャスト)し、神経の働きを高める。

 世界保健機関(WHO)でもカイロプラクティックは認められており、WHOのガイドラインでは、「神経筋骨格系の障害と、それが及ぼす健康全般への影響を診断・治療・予防する専門職」と、しっかり定義されている。

「人間の体を主にコントロールしているのは、脳から脊髄(せきずい)を通り体の隅々に行き渡る神経系であり、その働きがよくなれば、体は正常な動きを取り戻せます。カイロプラクティックでは主に筋肉や骨・関節の機能異常を改善させますが、健康管理などにも用いられています」(竹谷内さん)

 一方の整体も、骨格のゆがみに注目して行われる施術だ。似ているが、中国由来の療法や日本の武術由来の手技、カイロプラクティックなどが混在して「整体」と呼ばれている実態がある。各整体院の「整体観」に基づいた独自の施術をすることが多いため、統一された定義はない。

 では、カイロプラクターや整体師になるには、どんな資格がいるのだろうか。

 カイロプラクティックは本場のアメリカをはじめ、カナダ、イギリス、フランスなど世界44の国と地域では法制化されていて、WHOの推奨する教育プログラムを修了したものだけがカイロプラクターを名乗ることができる。

 しかし、日本ではカイロプラクティックも整体も、施術をするのに資格は必要ない。極端なことをいえば、記者が今日から「整体師」を名乗っても罰せられないのだ。

 そんなカイロプラクティックや整体の有効性はどうなのだろうか。欧米ではカイロプラクティックの研究が盛んで、腰痛やむち打ち、首の痛みなどに対する有効性が相次いで報告されており、本場のアメリカでは、代替医療の一つとして多くの人が利用しているという。

 前出の竹谷内さんは、疲労回復や出産後の体調不良の改善など、痛み以外の分野でも施術をしており、効果をあげているという。「カイロプラクティックの利点は、手術や薬なしで症状を改善させられるところです。スポーツ界などで注目されていて、短距離のウサイン・ボルト選手も、ロンドン五輪で利用していました」(同)。

 だが、日本では、カイロプラクティックについて、厚生労働省が研究会を設けて検討し、1991年に「医学的効果についての科学的評価は未だ定まっておらず、今後とも検討が必要」と通知を出している。

 これに対してカイロプラクティック業界側は、この研究は人選や方法に問題があり、参考文献もない非科学的なものと反論している。

「カイロプラクティックは、病院に行くほどのものではなく、また病院でも不定愁訴とされるような不調を改善する、ヘルスケアの一環だと思っています。ただ、単に癒やしを求めるリラクゼーションなどとは違って、有効性などについては客観的に検証して、エビデンス(科学的根拠)を積み重ねる必要があります」(同)

週刊朝日 2013年5月17日号