本人も気づかいないうちに病気のせいで、性格や行動がガラッと変わる。それが認知症の一つ、ピック病(前頭側頭葉変性症)だ。患者は国内に1万人強と、アルツハイマー病などに比べると少ないが、65歳以下の「働き盛り」の人に起きるケースが多く、影響は大きい。

 呉服店を妻と営んでいた干場功さん(73)は、あるとき突然、常連客からこう聞かれ、戸惑った。「新しい人雇ったの?」 妻・美子さんの電話応対が乱暴だったせいで誤解されたのだ。それが今から13年前、美子さんは当時59歳だった。20年近く夫婦で店を切り盛りしてきた。まじめで応対も丁寧なはずの美子さんが、今度は仕入れ先からも「夫婦喧嘩でもした? 奥さんの話し方が違う」と指摘された。疲れているのかと、大学病院に行ったが、原因不明と言われた。

「ほしばという名字が、ほ、し、あ、となる。言葉遣いが乱暴なだけでなく、妻の言葉はどんどん不明瞭になりました。スーパーでお金を払わず、店員に注意されると、逆に暴れるなどして、警察の厄介になったこともあります」

 言語のリハビリもしたが、家での様子も変化した。いろいろな料理を作っていたのに、食卓にはほぼ毎日「塩鮭」と「ほうれん草のお浸し」が並ぶようになり、ガスはつけっぱなし、シャワーは出しっぱなし。目が離せなくなる日々の中で、ようやく認知症の一つである「ピック病」とわかった。初診から3年後のことだ。

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