一方この日、「報道ステーション」(テレビ朝日)と「NEWS23」(TBSテレビ)は、24日に神戸で開かれた「正論」懇話会での安倍首相の2つの発言を紹介した。「憲法改正案を秋の臨時国会に提出する」と「獣医学部新設では中途半端な妥協をしたので、国民の疑感を招いた。これからは地域に関係なく新設を認めていく」というものだ。自らのこれまでの発言を否定するもので、それぞれのキャスターが「加計隠し」「焦り」「小手先」と論評して紹介した。なぜ2日遅れで伝えたのかは不明だが、ほかの社も目を向けていい面白いニュースだった。

 ところで6月には「ニュースウオッチ9」のほかにも、不当に長いニュースが1つあった。23日放送の「NEWS ZERO」の「追悼小林麻央」だ。この番組の初代キャスターをスタッフが悼む気持ちはよくわかるが、40分も割いて伝えたのは論外だ。これではニュースの私物化である。疑問ありだ。

 最後に6月の報道で、関西各局がローカルで頑張っていた事実にもふれておきたい。例えば「共謀罪」法が強行採決された6月15日の夕刻は、NHKの「ニュースほっと関西」を除くすべてのローカルニュースが、かなり長い時間を割いて、この事実を取り上げた。ニュース番組とは言えないかもしれないが「ちちんぷいぷい」(毎日放送)は、1時間にわたり問題点を指摘した。国会審議最終日の翌16日も、前日ほどではないにしても、報道姿勢はほぼ同様で、「キャスト」(朝日放送)は、参議院予算委員会の質疑を丁寧に見せることを試みていた。また毎日放送は24日の深夜、池上彰氏を東京支社に招き、生放送で政治を論じた。

 こうした一連の番組を見て痛感したのは、関西ローカルの活躍が東京発のネットニュースに肉薄している事実である。頼もしいことである。

※『GALAC(ぎゃらく) 9月号』より

辻一郎(つじ・いちろう)/ジャーナリスト。元毎日放送取締役報道局長、大手前大学教授など。「対話1972」「20世紀の映像」でギャラクシー賞、「若い広場」「70年への対話」で民間放送連盟賞などを受賞。著書に『私だけの放送史』など。