テレビ東京の梅崎陽氏の作品は、在京のユニークな女性脳外科医を描いたものだったが、商談で話題になったのは同氏が以前に作ったカリスマ盆栽師の作品だった。総務省の援助を受け、すでにブータンやマレーシアで共同製作をした番組で、発想はやはり盆栽師を放送地域に連れていくというものだ。

●MIPDOCは共同製作相手を探す場

 日本の制作者にとって、外国勢との共同製作は、言葉の問題などで不安があるかもしれないが、梅崎氏は「情熱があれば、英語が上手でなくても通じますよ」と破顔する。彼は、より多く日本の制作者が見本市に参加し海外の作り手と知り合うことを促しているが、日本発で一番売れるコンテンツはアニメだ。ドキュメンタリー市場では、「動物・自然、科学、歴史、文化・遺跡」が人気4大テーマとされており、民放にはこれまでハードルが高かった。

 だが、今後は配信系の買い手が、別の題材を扱った作品に食指を動かすだろう。すでにネットフリックスでは、有名シェフなどの「食」に関する番組など、4大テーマ以外の作品が多数提供されている。MIPDOCでも、BBCが自動車をテーマにした新番組をプレミア紹介していた。ニッチなテーマであっても、熱狂的なファン層がいる分野の作品は、セールスに繋がるようだ。

 前出の北欧のプロデューサーによると、ドキュメンタリーにも流行があり、題材だけでなく撮影の仕方・編集ナレーションの組み立て方が、常に変化しているそうだ。MIPDOCでは、展示がない代わりに1400本の作品と、共同製作向けの企画ビデオ300本を一度に試写できる会場がある。参加者の多くは、商談等の合間にほかの作品を研究し、共同製作相手を物色する。視聴ブースは、常に大盛況だった。

 予想外なのは、国際共同製作では複数社が共同出資して撮影までするが、編集以降のまとめは各自が行うケースが多い点だ。フランスの公共放送はNHKと多く共同製作しているが、編集やナレーションは、仏版はフランス・テレビジョンが独自に作る。今回NHKがプレミア上映した作品も、日本で放送された番組ではなく、フランス制作の海外版だった。「材料が一緒で料理は別。NHKとは長年の信頼関係があるので安心して組める」と語る。テレビ東京の梅崎氏もブータンの放送局と同じことをしていたそうで、「互いに納得できるものが作れて、製作費が捻出できる」との説明に合点した。

 多くのバイヤーは、3年後の東京五輪に向けて日本のコンテンツに興味を示した。日本の文化だけでなく、ライフスタイルなどにも関心が寄せられると言う。この機会に、ドキュメンタリーで、日本との共同製作が増えることを期待したい。

※国際共同製作の機会を提供することを目的に、海外のプロデューサーらを招いて、毎年東京で開催される国際ドキュメンタリー祭。受賞作など日本の作品を海外見本市でプロモートしている。

稲木せつ子(いなき・せつこ)/元日本テレビ、在ウィーンのジャーナリスト。退職後もニュース報道に携わりながら、欧州のテレビやメディア事情等について発信している。