●TBS「Nスタ」「あさチャン」は行動監視用のカメラまで設置

 ホームレスの人々への取材や報道は、特に民放ではかなり“好き放題”やっている印象だ。そもそも不法に路上や公園を占拠しているのだからとか、どうせ住所もなく放送を見ることもないだろうとか、BPOなどに訴え出ることはないと高を括っているのが画面からも透けて見える。「ビビット」がSさんら多摩川の河川敷で暮らすホームレスの人々を「多摩川リバーサイドヒルズ族」と揶揄する表現でシリーズ放送し、Sさんの回で「第7弾」だったことでも姿勢がわかる。他方、Sさんの周囲で投石や放火などホームレスを標的にした悪意ある行為が目立っているのも現実だ。知的障害や精神障害の割合が極端に高いとされるホームレスからお気楽なインタビューを得てそのまま放送すれば、どんな影響があるかなどの想像力も必要だ。面白おかしさを追求するあまりに偏見や差別を助長するだけの放送は襲撃事件などを誘発しかねない。

 実はSさんを一方的に断罪した番組は「ビビット」だけではない。教え子の女子学生からは昨年秋口から「Sさんを犯罪者扱いするテレビ番組」が相次いでいると報告を受けていた。16年11月3日のフジテレビの情報番組「とくダネ!」、11月22日のテレビ朝日のニュース番組「スーパーJチャンネル」、12月2日のTBSのニュース番組「Nスタ」、12月12日同局の情報番組「あさチャン」が強引に取材した。

 ここでもTBSの2番組が行きすぎた取材を行った。Sさんの居住範囲である犬の飼育区域に無断で「監視カメラ」を設置、行動を隠し撮りしたのだ。番組はSさんの「不法占拠」を問題とするが、TBSによる監視カメラの設置も「不法占拠」に該当する。番組が所有者である国土交通省に特別の許可を得たとは思えない。そもそもSさんの暮らす河川敷は、国有地を「畑」として10年以上も不法占拠している人が目につく。いかに不法占拠する相手とはいえ、日常生活を隠し撮りされないプライバシーの権利はホームレスでも通常は尊重される。監視カメラの使用はどういうケースで許されるのか。吟味の末の合法な手法なのか。驚くのは報道局が管轄するニュース番組も撮影される側の人権を軽視する取材・報道を行っていたことだ。もっともSさん本人は「ビビット」と同様にフジテレビ「とくダネ!」にも強い憤りを持っていた。

 今回、「ビビット」が比較的短時間で取材を検証し、謝罪放送まで果たしたことは、不祥事が起きると問題を「過小評価」しがちなテレビ業界では稀有な、勇気ある行為と評価してよい。だが残念なことに問題ある取材・報道は同じ局内でも局外でも山積している。

 今回の「ビビット」をめぐる問題が安直なホームレス報道を改善させるきっかけになってほしい。G

※『GALAC(ぎゃらく) 5月号』より

水島宏明(みずしま・ひろあき)/上智大学文学部教授(テレビ報道論)、元日本テレビ「NNNドキュメント」ディレクター兼解説委員、札幌テレビ・ロンドン特派員、ベルリン特派員。近著に『内側から見たテレビ』。