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●「人の皮を被った化け物」「犬男爵」 TBS「ビビット」が人権無視表現

 小さな法令違反をあげつらい鬼の首を獲ったように一方的な“悪者”レッテルを貼り付ける。他方で背景にある大きな構図は伝えない。TOKYO MXの沖縄基地反対運動をめぐる「ニュース女子」が典型だが、他局も違うテーマで同様の放送を繰り返している。特にホームレスをめぐる報道が象徴的だ。ホームレスは法令を突き詰めると、路上や公園を「不法占拠」している存在だ。とはいえ彼らがそこで生きざるを得ない事情があり、貧困など社会的構造もある。

 2017年1月31日、TBSテレビの情報番組「白熱ライブ ビビット」は、多摩川の河川敷で暮らすホームレス男性が犬を多頭飼いし、「法令違反」して「近所迷惑」だと強調して報道した。当の男性(Sさん)の顔や名前は伏せつつ、他のホームレスから「人の皮を被った化け物」「犬男爵」と呼ばれているという噂話をイラスト化して放送。河川敷の国有地を不法占拠し、多頭飼いする犬たちが周辺住民を噛むなどし、狂犬病予防接種も受けさせず問題だとして放送した。

 筆者は放送を見て仰天した。当のSさんは1年ほど前に筆者が教える大学のゼミで女子学生が河川敷で犬と暮らす姿をドキュメンタリーにしていたからだ。作品でSさん(実名・顔出しで登場)は捨てられた犬たちを放っておけぬ心優しい人物として描かれていた。当の女子学生からも「『ビビット』は酷すぎる。人権侵害では?」という訴えが届いていた。そこで2月2日、筆者がヤフーニュースで問題提起すると、ホームレス支援団体の関係者などから賛同する声が寄せられた。2月26日、筆者は教え子の女子学生と一緒にSさんの元を訪れた。Sさんは「『ビビット』から『やらせ』を依頼された」と怒っていた。「カメラの前に怒鳴り込んで登場してほしい」とスタッフから頼まれたという。Sさんが怒鳴り込む映像は、Sさんの粗暴さを象徴する場面として、番組で繰り返し使われていた。Sさんを「化け物」として表現するばかりか、もし「やらせ」行為まで依頼した放送なら大問題ではないか。そう考えて翌日、この聞き取り結果について再びヤフーニュースで発信した。

 「ビビット」は3月3日、番組内で局アナ(吉田明世アナ)が「放送内容と制作過程を改めて検証し、取材した男性を傷つける表現や不適切な点があったと考えます」と関係者や取材対象者に正式に謝罪。このなかでは「やらせ」問題に言及しなかったが、同時に公表した番組ホームページで、(Sさんに対して)スタッフが「『お前らここで何をやっているんだ』と言いながら歩いてきてほしい、と伝えました」と事実を認めた。筆者がスタッフに電話取材した際は「そんなことするわけがない」と強く否定していたが、TBS側は厳しく追及したのだろう。比較的短期間で謝罪へと転換した背景には、局の強い危機感があったと想像する。

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