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 この冬、「月9が歴代最低視聴率更新」という見出しを何度となく見かけた。私が覚えているだけでYahoo!トップに5回も掲載されたのだから目も当てられない。ネットの世界では、「フジテレビのネガティブな記事はページビューが伸びる」が定説であり、だからネットメディアはこぞって取り上げ、影響力の大きさを見たYahoo!もトップにあげるという負のスパイラルに巻き込まれてしまったのだ。

 ひるがえって、「当作はひどい出来だったのか?」というと、さにあらず。確かに先の展開が読みやすいラブストーリーだったが、ここまで酷評されるほど他作より劣っていたとは思えない。少なくとも西内まりやと山村隆太のコンビは鮮度があったし、並木道子監督の手がける映像も美しかった。「ひたすら専業主婦を夢見るヒロインの結婚観が古い」という声もあるが、ネット配信数が過去最高を記録し、その大半が10~20代だったなど、むしろ若年層には大ウケ。キャリアウーマン、イケメンアナウンサー、エリート証券マン、人気女優の四角関係。高級タワマン、アットホームな実家、行きつけの多国籍料理店。「何だか往年のトレンディドラマみたいな設定」と感じたかもしれないが、原作は連載中の人気漫画である。つまり「現在進行形のニーズがある」ということ。相変わらず量産される「刑事・医療ドラマなんかよりずっといい」という人は少なくなかった。

 問題は、あえて嫌う必要のない作品まで、何となく嫌いになってしまう、テレビ視聴環境にある。思えば同作は放送前から「主演にオファーを断られた」「『逃げ恥』の二番煎じ」などの辛らつな声が飛び交っていた。そこに放送開始後の低視聴率報道が重なり、フォローができないまま推移。「ネット接触時間の長い人ほど、悪いイメージが刷り込まれていた」のは間違いない。これを読んでいるドラマ通や関係者ですら、「フジテレビ、月9というだけでミスリードされていたのでは?」と疑いたくなるくらいだ。かくいう私もそうならぬよう、常に気持ちをリセットして向き合おうと言い聞かせていた。

 テレビ局側としては、ネガティブな記事やコメントが出にくいように先手を打つなど、「やられっ放しでフォローすらできない」という現状を変えるべきだろう。意味なく繰り返されるネガティブ・キャンペーンに屈して、「批判の出にくい無難な作品ばかりに偏ってしまう」という最悪のシナリオは避けなければいけない。

 月9はこの春で30周年を迎える。最後に一言、「頑張れ、フジテレビドラマ班!」。

※『GALAC(ぎゃらく) 5月号』より

木村隆志(きむら・たかし)/実際、私のもとにも「フジテレビへの辛らつなコラムを書いてほしい」という依頼が何本も来るが、当然ながら丁重にお断り。ページビュー獲得にこだわるメディアを見極める目を持ちたい。