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 話題作が多く、盛り上がった秋ドラマ。その立役者は、「逃げるは恥だが役に立つ」の野木亜紀子、「砂の塔」の池田奈津子、「IQ246」の泉澤陽子など、2010年代に連ドラデビューした女性脚本家たちではないかと思っている。ドラマ業界では脚本家の高齢化が叫ばれて久しいが、今年も大石静、遊川和彦、岡田惠和、井上由美子ら“アラ還”のベテランが大活躍。いまだ最高峰であることを証明した一方、「若手が物足りない」と言われていたからだ。

 ただ2016年は新世代の女性脚本家が目立った反面、男性脚本家の台頭はなし。「2017年もやはりベテラン頼みになるのか」と思っていたところ、最後に異色の期待株が現れた。

 その名はバカリズム。本職は売れっ子のピン芸人であり、「黒い十人の女」が連ドラ2作目だった。同作は市川崑監督が手がけた映画のリメイクだが、その内容はまったくの別物。「妻のいるテレビ番組のプロデューサーが9人の女性と不倫している」という設定以外は、原型を留めないほど自由に描き、そこで「お笑い四次元ポケット」と呼ばれる才能が爆発した。

 女性10人の描き分けと相関図の整理、女心をつかんだうえで突き放すようなセリフ、LINEの巧みな使い方、徐々に濃度の高い飲食物をぶっかけ合う視覚的な訴求など、「これでもか」というほどの技で畳みかけてきたのだ。その筆致は、「みなさんが大好物の不倫」という皮肉たっぷりのナレーションが物語るように視聴者を翻弄。女優たちも「全員がハマリ役のように、バカリズムの掌で嬉々として踊っていた」というイメージが残る。本人は「脚本ではなく長いコントを書いているだけ」と話していたが、一瞬も飽きさせない手数の多さとハイテンポな展開は、いかにも時流に合う。

 惜しむらくは、終盤にトーンダウンして無難な着地を見せたこと。それはフワッとしたオチの多い彼のコントを思い出させた。今後は「連ドラらしいクライマックスに向けた盛り上がりをどう作るか」が期待されるだろう。それでもデビュー作「素敵な選TAXI」は1話完結型であり、実質初めての連ドラ。「脚本家の勉強はしていない」のだから見事と言うほかない。

 又吉直樹を筆頭に作家活動に励む芸人は多いが、脚本家はほとんど見かけない。従来の新人コンテストで男性脚本家が育たないのなら、人材豊富な芸人の中からスカウトするのもアリではないか。「長いコントのつもりで一本書いてみて」。そんなハードルの低い口説き文句で声をかけてみてほしいと思う。

※『GALAC(ぎゃらく) 2月号』より

木村隆志(きむら・たかし)/バラエティの「バカ」ですらBPOの審議対象になるほど、テレビ番組への不寛容なムードが顕著に……。当然ながらそれを楽しんでいる人もいるだけに、ドラマのプロが作る「バカ」は生き残ってほしい。