●冷静なアプローチが今こそ必要 報道手法の見直しを

 早くも「米国は、日本は、そして世界はどうなる?」と、視聴者の不安を煽るような報道が一部の情報系番組などに散見される。確かに将来の不確実性は高まった。だが、いま報道に求められているのは、冷静なアプローチだと思う。興味本位で情緒的に過ぎる報道は厳に慎むべきである。

 11月12日放送の「ウェークアップ!ぷらす」(読売テレビ)は小野寺五典元防衛相やケビン・メア元米国務省日本部長らをゲストに迎え、トランプ政権の行方とこれからの日米関係などを特集した。問題点をわかりやすく整理し、取り上げ方も冷静で客観的だった。「選挙戦での過激な発言通りには、政策を進められないだろう」という指摘にも共感できた。

 今回の米大統領選を巡る報道を振り返る時、欧州共同体(EU)からの離脱か残留かを問う英国の国民投票(6月)が思い起こされる。あの時も、離脱派の勝利という結果に対し「予想外」の声が上がり、「ブレグジット」(イギリスEU離脱)という造語さえ生まれた。今にして思えば、これも「残留派の優勢」とする英メディアの報道に引きずられた見立てが生み出した誤信だった気がする。

 世界中で価値観の多様化と分極化が進んでいる。主要なメディアは旧来の報道手法を見直し、多様な民意を汲み取るための新たな尺度を模索すべき時機に差し掛かっているのかもしれない。(元毎日新聞アフリカ特派員/元TBSロンドン支局長/元TBS外信部長・伊藤友治)

※『GALAC(ぎゃらく) 1月号』より