私が駆け出しの外信記者だった頃、「鋏(ハサミ)と横縦のジャーナリズム」という言い回しがあった。在米支局の日本人特派員を揶揄する意味合いで使われた。

・現地で取材しない(できない)記者が有力紙などから自分の記事に使えそうな部分を探し出し
・それらを鋏で切り取り、都合よく繋ぎ合わせた後に
・横書きの英文を縦書きの日本語に訳して記事を書く

 というものだ。30年以上も前、まだ英語を苦手とする特派員が大勢いた時代の話である。今とは状況が違うだろうが、米メディアへの依存体質は根強く残っている。

 予備選挙が終わった後、私は16年7月号の本欄で「トランプ候補に対する高い支持率は本物なのか? それはなぜなのか?」と疑問を呈し、「『既成のワシントン政治に不満を抱く有権者層が増えている』という通り一遍の分析や解説に終始しないで、米国社会に胎動する変化を掘り下げてほしい」と注文を付けておいたのだが、応えてもらえなかった。残念である。

 それでも、評価すべき報道番組が皆無だったわけではない。「NHKスペシャル」11月1日放送の「トランプ氏猛追、大統領選まであと1週間」、同5日の「揺らぐアメリカはどこへ?混迷の大統領選」では、トランプ現象がグローバル化に翻弄される労働者の現体制に対する抵抗なのか、という視点から、既成の政治に不満を抱く白人労働者層の多い地域を重点にインタビューを交えた取材で、投票直前の動向を丹念に伝えていた。

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