「バリバラ」は頑張って工夫していますが、独自の道を行っていますから、必ずしも標準的な障害者の感覚ではありません。いずれにしても、番組の企画段階から当事者が参加し、多様な意見が入る仕組みを作ることが大事です。

 グローバリゼーションが進む現代は、国も地域も一つの大きな器のなかに入ってしまって序列化されています。軸になっている尺度は生産性、経済性、効率性です。障害者、病気の人、高齢者など、生産性が乏しい人は人間的に価値がないと見られるのは70年前の「価値なき生命の抹殺」と原理的に近い。市場原理、競争原理、勝ち負けといった言葉で表されていますが、優生思想と地続きのような流れがあります。

 社会は進歩しないといけないし、生産性や経済性は大事です。上へ上へという発想を持たなければ人類は進歩しません。でも、生産性という縦軸だけではなく個人の尊重、弱い人との共感、つながりなどの横軸も同じぐらいのエネルギーを使って広げてほしいのです。縦軸一本やりでは、そのうちパタッと倒れてしまいます。

 世界はこぞって縦軸ばかりの進歩を目指し、メディアもそれに従っている感じがしますが、縦と横が均衡に発展していかないといけません。

 

●手話放送は1%以下進んでいない障害者向け放送 

 

 障害者はテレビを見るとき、字幕、音声解説、手話の3つをよく使います。放送時間に占める字幕放送の実績(※総務省調べ)はNHK総合76%、在京民放キー局58%で増えていますが、9月の台風のときは入っていないことがありました。緊急時に情報が欲しいのは障害者も同じです。音声解説は各10%、2%。手話は各0・2%、0・1%と低く、ほとんど伸びていません。テレビへのアクセスの平等性をどう確保するかは、テレビ業界に課せられた大きな課題です。2020年の東京オリンピック・パラリンピックに向けて、今後4年間で業界をあげて取り組んでほしいところです。

 東京オリンピック・パラリンピックは「障害者が住みやすい社会はみんなが住みやすい」ことを実感できる街づくりのチャンスです。パラリンピックは最近ようやく新聞の社会面からスポーツ面で扱われるようになり、オリンピックと同じように放送されるようになりました。この機会に、選手だけでなく障害者一般のスポーツ、レクリエーションの問題も考えてほしいと思います。

 ラジオも障害者問題を正面から取り上げる番組は少ないですが、NHK第2が「視覚障害ナビ・ラジオ」という番組を毎週日曜の夜7時半から放送しています。行政や福祉機器の情報、提言など、優れた番組です。キャスターも障害者で、当事者の意見を聞いていますし、スタッフの尽力が大きいと思います。民放ではTBSラジオ「荻上チキ・Session―22」が障害者問題をときどき取り上げています。

 

●対等にふるまうための個別的支援をテレビはどう実現するか

 

 今年8月、東京メトロ青山一丁目駅のホームで視覚障害者の品田直人さんが転落死されたとき、テレビは障害者団体が現場を視察したことを報道していました。しかし、一瞬で終わってしまい、取り上げ方が浅いと感じました。社会福祉の問題は起こった現象と背景の両方を見る必要があります。この転落事故もやまゆり園の事件も、障害がなければ起きませんでした。そこにスポットを当てる視点が欠けています。自分が目隠しをしてホームを歩いたらどうなるか、鉄道会社のリーダー層の想像力の欠如など、背景までえぐり、当事者も入って解決策を考えるところまで報道されればよかったと思います。12月3日からの障害者週間に今年の障害者にまつわる事故、事件を振り返ってほしいですね。

 国連の権利条約を受けて、日本では今年4月に「障害者差別解消法」が施行されました。この法律でいう「差別」とは何かというと、権利条約の第二条に「障害に基づく差別には、あらゆる形態の差別(合理的配慮の否定を含む。)を含む」と定義されています。特に「合理的配慮」にどう関わるかが、放送局には問題になるところです。合理的配慮とは、私とあなたが対等にふるまうための個別的な支援です。これを提供しないと差別になってしまいます。

 私は「重箱の三段重ね」で説明するのですが、例えば、駅にエレベーターがあれば障害者、高齢者、ベビーカーを押す人、二日酔いの人も助かります。これが重箱の一段目のユニバーサルデザインです。二段目は車いすでも切符が買えるように券売機を低くしたり、点字をつけたりする、障害者共通の支援策です。そして三段目の合理的配慮は、ホームと電車のすき間が大きくて車いすで乗れないとき、駅員さんに助けをお願いするような個別的対応です。

 メディアはこの法律にどう対応すればいいのか。テレビは字幕、手話、解説放送など、重箱の二段目までで終わっています。ただ、二段目の障害者共通の支援策も最初から共通だったわけではなく、障害者個人のニーズから始まったものです。いまは知的障害者にもわかりやすいように、ゆっくりと平易な言葉を使った放送の研究も進められています。海外では英BBC、米NBCやCNNなどがさまざまな研究、実践を始めています。この法律は国家公務員、地方公務員には義務づけられていますが、交通事業者、放送事業者に対しては努力目標ですから、まだ安心していると思いますが、今後は問われてくると思います。「障害者が住みやすい社会は誰もが住みやすい」。ぜひメディアもこの視点を強化してもらえるよう期待します。(談)G

ふじい・かつのり 1949年福井県生まれ。都立小平養護学校教諭を経て、日本初の精神障害者の共同作業所「あさやけ第2作業所」や「きょうされん」(旧共同作業所全国連絡会)活動に専念。自身、視覚障害で、著書に『見えないけれど観えるもの』『えほん障害者権利条約』など。

インタビュー ・ 構成/仲宇佐ゆり