波瑠 「ON 異常犯罪捜査官・藤堂比奈子」に主演 (c)朝日新聞社
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  「エッ、また波瑠が出るの?」――そう思った人は多かったのではないか。朝ドラ「あさが来た」から「世界一難しい恋」、そして今作と休みなしの三連投。つまり、丸一年間メインキャストとして連ドラに出続けているわけで、異例なんて言葉じゃ足りない働きぶりに驚かされる。

 そんな旬の女優・波瑠が初の刑事役に挑む今作。刑事ドラマながら犯人探しや謎解きの要素は少なく、どこか危なっかしいヒロインをハラハラしながら見守るサスペンス色が濃い。実際、たった一人で異常犯罪者のもとへ向かい、自ら相手の殺人スイッチをONにさせ、「そう、その顔が見たかったの」と口にしつつ、案の定襲われる。腕っぷしの強さも、銃をぶっ放す大胆さもないため、常に命の危険にさらされているのだが、その危うさで視聴者の心をつかんでいる。

 サブタイトルを見れば、波瑠が異常犯罪者たちと対峙するシーンが、ドラマのクライマックスであることは明白だ。まっすぐな目と血走った目、キリッと結んだ口とだらしない半開きの口、凛とした佇まいと小刻みに震える醜い姿……旬の女優が持つ輝きと、犯罪者役の猟奇性はコントラスト十分。二人の熱演をとらえた小刻みなカット割りが、緊張感を加速させる。

 というように、はっきりとしたコンセプトを持った刑事ドラマであることは間違いない。しかし、殺人に興味を示す刑事も、異常犯罪も、抜群の記憶力やプロファイリングも、複数の作品で見られたものであり、目新しさはどこにも見当たらなかった。ただ、制作サイドは「そんなことは百も承知」であり、もしかしたら「むしろ波瑠の勢いを生かすために、目新しさはいらない」と考えたのではないか。手足の損壊や冷凍などグロテスクな死体の映像が目立つのも、単に「ホラーの季節だから」。「今はシンプルに波瑠の勢いに乗れ」。そんな制作サイドの声が聞こえてくるようだ。

 異常犯罪とグロテスクな映像の2点で思い出されるのは、竹内結子主演の「ストロベリーナイト」。こちらは「犯罪者を徹底的に憎む」熱いヒロイン像で支持を集め、映画化につながるヒット作となった。ひるがえって今作の「犯罪者に興味を持つ」クールなヒロイン像が視聴者に受け入れられるかは未知数。また、異常犯罪を扱うだけで不快な思いを抱く人がいる以上、視聴率は厳しそうだが、反面「もっとグロテスクにやれ」なんて推進派もいるだろう。

 ともあれ今、波瑠を起用した以上、どこまで輝かせられるのか、制作サイドの力量が問われる。最終回で覚醒した姿が見られる期待大。

●きむら・たかし 関西テレビ制作の火曜22時は「サイレーン」「僕のヤバイ妻」など、猟奇的なキャラ設定が続く。前2作はヒロインが猟奇的だっただけに、今作の波瑠も……。いっそ“猟奇的な彼女”枠で固定ファンを集めてはどうか。