●国政に関わるはずの沖縄問題 問われたメディアの立ち位置

 さて、舛添問題が東京ローカルの出来事を全国版に拡大したニュースだとすれば、6月22日の参議院選挙公示のニュースは、それとは逆に、国政にかかわる沖縄問題を、ことさらに小さくしている感があった。

 この日、各党党首は公示第一声でだれ一人、沖縄問題を真正面から取り上げることをしなかった。そのこともあってだろうか、放送枠を1時間15分も枠大して各党党首に質問した22日の「ニュース7」(NHK)でも、沖縄にかかわる質問は行わず、基地問題抜きで話が進んだ。これでは沖縄島民の不満はつのるばかりである。その一方、まるで埋め合わせをするかのように、沖縄戦の犠牲者を追悼する慰霊の日(6月23日)のニュースでは、「ニュースウオッチ9」(NHK)の河野憲治キャスターと、「NEWS23」(TBSテレビ)の星浩キャスターがそれぞれ現地に飛び、島民の抱く思いを詳しく伝えた。また、その翌日の「報道特集」(TBSテレビ)でも、金平茂紀キャスターが沖縄から、「いつまで私たちはバカにされ続けるのでしょうか」と訴える島民の声を熱く伝えた。これと全く逆の姿勢をとったのは、「ユアタイム~あなたの時間~」(フジテレビ)だ。追悼式の映像を全国ニュースの最終項目で流したが、コメントはつけず、音楽バックで情緒的に処理していた。何故こんな扱いにしたのか、沖縄島民の思いをあえてないがしろにする意図は何か、理解に苦しむ編集だった。

 沖縄戦から71年を経てなお、沖縄では戦争の不条理と残酷さが語り継がれ、米軍基地があるがための事件や事故が、癒えぬ傷に新たな傷を加えている。この島民の苦しみがわからなくては、「米軍に次ぐ第二の加害者はあなただ」と指弾されても、抗弁できぬことになる。責任ある報道を行うためにも、メディアの立ち位置をどこに置くか、しっかり考えることが必要だ。

 なお参院選関連の報道では、前述の公示日の「ニュース7」の他にも、合点のいかないものがいろいろあった。なかでも不審だったのは、投票日を翌々日に控えた7月8日のNHKニュースである。この日、民放各局がいずれもニュースで参院選関連の特集などを伝えるなか、NHKだけは見送り、「ニュースウオッチ9」の終了時、河野憲治、鈴木奈穂子両キャスターが、「明後日、日曜日にはぜひ投票に行きましょう」という意味のコメントを短く述べるにとどめていた。これはいったい何故か。不可解の一語に尽きた。

●関西も視聴率意識の生中継 週刊誌が終始リード

 さてここで、冒頭の舛添問題に話をもう一度戻したい。関西ローカルの「ちちんぷいぷい」(毎日放送)は、氏が辞職した前日と当日、東京都庁から独自の生中継を交え、長時間の特集を組み伝えていた。この番組は日頃からオバマ大統領の広島訪問を大きく扱うなどの姿勢をとり、そこが魅力になっている。だが今回ばかりは「そこまでするのか」と疑問を抱いた。番組で紹介した大阪の街の声でも「どうして都知事の問題ですか? 他にニュースはないのですか」と問う人がいて思わず笑った。何にでも積極的に取り組めvばいいというものではなく、視聴率狙い、興味本位の報道にも、限度があると知るべきだ。それにどうしても扱いたいのなら、例えば「東京を反面教師に、関西を考える」など、何か別の視点を盛りこんでほしかった。
 この舛添問題では、終始『週刊文春』がリードした。それに追随するだけでは情けない。また東京発のワイドショーではスポーツ紙も含め7紙の切り抜きを次々に見せ話を進めた局もあったが、裏もとらずにこんなことをしていたのでは、新聞人の軽蔑を買うばかりだ。テレビも独自の調査報道にもっと力量を発揮し、隠された事実の発掘にあたってほしい。そこに力を入れなくては、テレビニュースの明日はない。

●つじ・いちろう ジャーナリスト。元毎日放送取締役報道局長、大手前大学教授など。「対話1972」「20世紀の映像」でギャラクシー賞、「若い広場」「70年への対話」で民間放送連盟賞などを受賞。著書に『私だけの放送史』など。