●同じ局でも他民族を見下す番組に「?」中国人のひどさ伝えたTBS

 報道番組で「民族差別」に比較的敏感な局がTBSだといえそうだが、他の番組まで見渡すとそうとばかりもいえない現実がある。5月23日の同局のバラエティ番組「直撃!コロシアム!! ズバッと!TV2時間SP」は、日本に住む中国人に対する“民族差別扇動番組”と表現しても過言ではない内容だった。

 靴の底や古タイヤでタピオカを作って販売したり、トイレの水をろ過しただけの「ミネラルウォーター」や下水で流された使用済みの油をろ過した食用油を売ったりする食品偽装。PM2.5に象徴される環境汚染の問題も取り上げ、「中国社会のひどさ」を伝えた。それらはこれまでも断片的に伝えられてきた内容で、現地のニュース映像を使って伝えていた。

 番組はさらに中国人のマナー問題に進む。しかも「日本に住む中国人が起こした驚きのエピソード」というコーナーまで登場。「仮名」の日本人視聴者からの体験談を再現VTRで次々と描く。マンションの駐輪場に停めていた自転車を中国人の隣人が勝手に「借りた」と主張して使っていたというエピソード。団地の共有スペースでバーベキューをやっていた、という目撃談。スーパーでは自分が買うつもりの食品について、レジで支払う前に実際に食べていたという目撃談。

 中国人観光客が起こしたトラブルとして、ホルモン屋に市場で買った魚介類を持ち込んで堂々と焼いていた。ホテルの廊下に爆買いした大量の荷物を置いていた。渋滞中に平気でバスを降りて外で記念撮影などをしていた。コインを入れないでと禁止の但し書きがある池にコインを投げ入れた。民家の軒先で食事していた。レストランでも魚の骨などをそのままテーブルの上などに載せていた。行列に割り込んだ。線路内で写真を撮った。路上喫煙したなど、再現VTRの例は後を絶たない。そうした例を紹介しながら「中国人は信用できない」などと、東国原英夫などがスタジオで叫ぶ展開だ。中国国内での食品偽装や環境問題での「いい加減さ」「滅茶苦茶ぶり」などと、観光客、さらには「日本に住む中国人」も全部一緒くたに扱っていた。

 筆者は国家としての中国政府が南シナ海に軍事拠点を構築している危険性などを報道番組で伝えることは大切だと考える。しかし、さまざまな問題を区別せずに結びつけて「中国人は信用できない」などと一括して放送する乱暴な扱いはヘイトスピーチ解消法でいう「不当な差別」「著しい侮蔑」に近く、放送倫理上、問題と感じる。実際、大学で教えている中国人留学生たちからも苦情を聞いた。「見知らぬ人から『あなた中国人? テレビで見たけどマナーを知らない人が多くて迷惑だ』と怒られた」「日本もかつて発展途上国だったのに、現在、発展途上の国の“遅れている点”を集めてバカにするような放送。これを民族差別とは言わないのでしょうか?」。

 2013年にボカシを多用したバラエティ「マツコの日本ボカシ話」を打ち切りにした際、TBSは報道番組の基準をバラエティなども徹底すると発表したが、その教訓は死んだのか? 偏見や差別への無神経さと無自覚さに呆れるばかりだ。

●みずしま・ひろあき 上智大学文学部教授(テレビ報道論)、元日本テレビ「NNNドキュメント」ディレクター兼解説委員、札幌テレビ・ロンドン特派員、ベルリン特派員。近著
に『内側から見たテレビ』。