●ヘイト問題と向き合ったTBS「報道特集」

 そんななか、ヘイトスピーチにさらされる被害者の目線で問題のありかを描こうとしたのが5月14日の「報道特集」だ。差別を煽るヘイトスピーチの実態を見せたうえで、在日コリアンが多く住み、ヘイトデモが押し寄せてくる街、川崎市川崎区桜本地区を舞台にして取材。在日3世の崔江以子さん(41)とその息子の中学2年の寧生くんの親子に焦点を当てた。自分が生まれ育った街で拡声器が響いて「死ね」などと暴力的な言葉が浴びせられることに寧生くんは「みんなが傷つく」と話す。

 マイクを握った彼は涙を浮かべ、「ヘイトデモは今までの生活のなかで一番嫌な出来事でした」と訴えた。ヘイトスピーチを受ける側の「痛み」をきちんと伝えようとする内容で優れたドキュメントだった。
 法案審議では与野党の間で意見の相違があり、ヘイトスピーチを禁止までせず、罰則を設けずに「許されない」という表現にとどめた。また保護する対象者を外国出身者に限って、実際にはヘイトスピーチの標的になることもあるアイヌや障害者、被差別部落出身者などを除外したが不十分だという批判が野党などから出ている。

 その後、6月5日に川崎市で法施行後に初めてのヘイトデモが予定されたが、反対派が抗議して中止されたことがニュースになった。夕方ニュースで日テレ、フジ、テレ朝など各局が報じたが、TBSだけ崔江以子さん、寧生くんの親子が反対する側として行動していた映像を流し、継続取材の強さを見せつけた。

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