私なりの解釈だが、日本の尺度に当てはめて世界を見てはいけない、ということだろう。日本で当たり前のことが世界では必ずしもそうではない。日本にとって都合の良くないものは、全て「悪いもの」「誤り」であると決めつけるのはやめよう。たとえトランプ候補の主張に異論があるにしても、それをもって、すぐさまトランプ氏は危険な人物であり米大統領には不適格だと決めつける発想は良くない。寺島氏は、そう訴えたかったのだろうと私は推察する。幅広い観点から、冷静に、しかも複眼的に国際情勢を解説する寺島氏らしい指摘であり、大いに共感できた。

 戦後、日本は経済大国として、世界枢要な位置を占め、責任を担う国になった。しかし、世界情勢を冷静かつ客観的に把握する能力という点で評価すれば、必ずしも優れているとは言えないところがある。

 日本人を「井の中の蛙」にしないことがメディアの国際報道に課せられた大きな責任であると私はかねがね考えている。その意味で、「サンデーモーニング」の切り口は多様性に富む見方や考え方を提示していた。

 もう一つ、目から鱗の報道があった。5月9日の「Nスタ」(TBSテレビ)が取り上げたトランプ候補の主張の検証企画だ。そのなかで、在留米軍の費用負担を日本、韓国、ドイツ、イタリアの4か国で比較検討してみせた。

 それによると、米軍の駐留費用の各国負担割合は韓国の40%、ドイツ、イタリア両国が30~35%台なのに対し、日本は74.5%と突出しているばかりか、その額も7250億円に達しているという。

 大統領選で焦点の一つになりそうな在留米軍問題について、具体的な数字を挙げながら冷静な検証を試みた同番組の報道姿勢に胸のすく思いがした。

 米国は多くの日本人が親近感を抱き、さまざまな分野で最も強い影響力を持つ国である。その動向に無関心ではいられない。だから視聴者はテレビ報道に大きな期待を寄せている。

 両候補の勝敗予想に重点を置く報道にとどまらず、米国の内側で胎動する新しい変化や方向性、日本や世界との関係などについて、もっと深掘りした情報を伝えてもらいたい。

●いとう・ゆうじ 元毎日新聞アフリカ特派員、元TBSロンドン支局長、元TBS外信部長。