しかし、放送の批評性が、今年あたり、いろいろ問題になるよね。選挙もあるし、改憲問題も出てきそうな気配だから。もう保守派の一部からは「放送は事実だけ伝えればいい」「コメントもいらない」という声が上がっているし、「スポンサーを締め上げろ」みたいなことを公言する若手の与党議員もいたりするしね。これって、放送の多様性なんかもってのほか、放送人にドライブレコーダーになってろ、放送の仕事をするな、ということでしょう。

 実際、私の耳が遠くなっているせいかもしれないけど、メインの政治ニュースのキャスターコメントは激減してるね。おしゃべりになるのは気象情報とスポーツネタのときだけ。その差が歴然と見え透いて、いったいどうなっちゃってるんだ、と小心ぶりが気の毒だね。制作陣全体が臆病になってるんじゃないの。

 だけど、こういう傾向って、BPOの検証委員会や人権委員会の案件になりにくいんですよ。BPOは個別番組の特定の瑕疵は、その実態があるから指摘できるけれど、実態の無いものは批評しようがない。自分の考えを言いなさい、なんて小学生に言うみたいなことは提言できないしねえ。結局、制作者もBPOも、放送の使命に立ち返るしかないんじゃないかな。何のために放送やってんの、この仕事をやってるのは何のため、といういちばん素朴で、いちばんの原点。

 でも、いまの放送人は面白いところにいるよ。原点までさかのぼって考えられるなんて、めったにない廻り合わせだもの。

●よしおか・しのぶ 1948年長野県佐久市生まれ。早稲田大学政治経済学部中退。日航機墜落事故をテーマにした『墜落の夏』で第9回講談社ノンフィクション賞受賞。日本ペンクラブ常務理事。BPO放送倫理検証委員会委員などを務めた。