特集 揺れる!番組倫理の〝番人〟BPO (※イメージ写真)
特集 揺れる!番組倫理の〝番人〟BPO (※イメージ写真)
吉岡忍(よしおか・しのぶ)1948年長野県佐久市生まれ。早稲田大学政治経済学部中退。日航機墜落事故をテーマにした『墜落の夏』で第9回講談社ノンフィクション賞受賞。日本ペンクラブ常務理事。BPO放送倫理検証委員会委員などを務めた。
吉岡忍(よしおか・しのぶ)1948年長野県佐久市生まれ。早稲田大学政治経済学部中退。日航機墜落事故をテーマにした『墜落の夏』で第9回講談社ノンフィクション賞受賞。日本ペンクラブ常務理事。BPO放送倫理検証委員会委員などを務めた。
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 今回の政権に対する意見書公表に関し、多くの人々から好意的な声がBPOに対し上がっているが、本来の放送や番組の向上に果たす役割はどうなのだろうか。BPOで放送倫理検証委員会委員などを務めた作家の吉岡忍氏がBPOに求めるものとは?

●BPOは番組を作っているわけじゃない

 BPOは放送や番組の向上に役立っているかって、そりゃ役立ってないです。番組をよくするのも悪くするのも制作者であって、BPOじゃない。BPOは番組を作っているわけじゃないですから。

 番組制作者が「BPOがうるさくて、やりたいことができない」とボヤいているって? 嘘ばっか。昔、私が放送倫理検証委員会にいたとき、一度でもスタジオやMAをやっているところへ行って、あれこれ口出ししたことがありますか? 番組は一から十まで制作者が作っているじゃないですか。

 野球やサッカーの選手が成績の悪いのをバットやボールのせいにしたり、ましてやルールのせいになどしたら、笑われるでしょ。職人が出来の悪いものを作って道具のせいにしたら、呆れられるだけ。私だってつまらない原稿を書いたら、一発でアウト。制作者の腕が悪い、それだけの話を他人のせいにしているうちは、番組は面白くなりません。

 でも、プレッシャーになっているって? それもどうかなあ。あの、私ね、検証委員会の意見書をだいぶ書きましたけど(もちろん委員会の議論を踏まえて、です。個人的意見じゃありません)、放送局側からいつも、「あまり長文だと、現場は読まないです」と言われてた。実際、現場スタッフはほとんど読んでいないんじゃないの。読んでもいないものがプレッシャーになるわけないじゃん。

 だいたいね、BPOに番組向上というか、番組を面白くする役割を求めるほうが間違っています。放送局や制作者とは、役割がちがうんだから。

●満蒙開拓団の話から見えてくること

 昨年末、NHKラジオ第一で、戦後70年の締め括りみたいな一時間番組に出演したんですよ。

 戦争中の満蒙開拓移民の話。当時の日本は中国東北に満州国を樹立し、そこに500万人からの農民を移住させようとしていた。27万人を送ったところで敗戦、頓挫します。そのあとが大変で、ソ連軍が侵攻してきたとき、日本の関東軍はとっくに逃げていて、取り残された農民たちは殺されたり、集団自決したり、子どもは残留孤児になったり。このなかで8万数千人が亡くなった。

 私、長野県の出身なんです。長野県は満州移民に3万3000人と、全国一の農民を送り出した県だから、子どもの時からこの話は聞いていたのね。山間の農村地帯では、村を二分して、片方がそっくり移民したとか、それが向こうで全滅したとか、悲惨な話がたくさんあった。戦後生まれの私もそこまでは知っていたんです。

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