2011年の会見でのたかじん氏 (c)朝日新聞社 @@写禁
2011年の会見でのたかじん氏 (c)朝日新聞社 @@写禁

「父の本が出ることは噂で聞いていたから、どんな本だろうと思っていたんです。読んでみて、あまりに一方的なひどい内容なので驚きました。いろいろと私のことを書いているけれど、事実と違うことばかりです。百田さんから取材の申し込みもありませんでした。こんなのノンフィクションじゃないですよね? それなのに本の中で『すべて真実である』と言っていて、何て雑なんだろうと思います。なぜ、私を悪者に仕立て上げる必要があったのでしょうか」

 落ち着いた物腰でこう語るのは、今年1月3日に食道がんで亡くなったやしきたかじん氏(享年64)の長女・Hさんである。

 Hさんは、たかじん氏が23歳の時に結婚した最初の妻との間にできた、ただ一人の実子だ。女優の真木よう子に似た風貌で、眼差しの奥に芯の強さを感じさせる41歳の既婚者だ。

 一方、百田尚樹氏の『殉愛』(幻冬舎)の“主役”は、たかじん氏が亡くなる前に結婚したさくら氏(33)だ。Hさんは横柄な態度で8歳下の父の若妻に関西弁の暴言を浴びせる「中年女性」として作中で描かれている。

 奔放な女性関係で有名だったたかじん氏だけに、Hさんの生い立ちは複雑だ。Hさんの母とたかじん氏の結婚生活は数年ほどしか続かず、たかじん氏は家を出てしまった(その後、離婚調停を経て離婚)。Hさんは学生時代に母を病気で亡くし、その後は母方の祖父母、父方の祖父母の元で育てられた。

 百田氏は<娘にしてみれば、かつて母を捨てた父に、自分もまた捨てられたと考えたとしても不思議はない>などと記している。Hさんはたかじん氏との関係をこう振り返る。

「父は私が物心つく前に自分の女性関係の問題で家を出ていってしまったけど、離れて暮らしながらも定期的に会っていました。母が生きている間は誕生日とかクリスマスの時には親子3人で食事をしたり、プレゼントを買ってもらったり、父のマンションに泊まりに行ったり。大人になってからも年に1、2回は会っていました。一般的な仲の良い親子とは違うのでしょうが、私たち親子のペースとしてはそれが普通でした。他人に何がわかるんですかと言いたいです」

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