ドラマ評論家の成馬零一氏が、NHKで放送中の岡田惠和脚本ドラマ『さよなら私』の身も蓋もない生々しい台詞などを取り上げ、『セカンドバージン』以後の人気不倫ドラマのパロディにも見えるとも評する。

*  *  *

 え? 今、何が起きた? ドラマの第1話を見て、ここまでびっくりしたのは実にひさしぶりだ。

 NHKの火曜夜10時から放送されている『さよなら私』は、永作博美が演じる専業主婦の星野友美と、石田ゆり子が演じるキャリアウーマンの早川薫という正反対の立場の女性を主人公にしたドラマだ。2人は高校時代からの親友で、もうひとりの親友・三上春子(佐藤仁美)と3人でつるんでいた。しかし友美と薫の間には、2人だけの秘密があった。

 友美は、息子の健人(高橋來)が寝る時に友美の髪を掴むという家族しか知らない癖を、薫が知っていたことを不審に思う。そして、夫の洋介(藤木直人)と薫が不倫関係にあることを知る。友美は薫を神社に呼び出して真意を尋ねるが、薫は洋介の方から口説いてきたと語り、

「してないんだってね。何年も。子ども生まれてからか。私とはしてるよ。会う度にね。楽しくセックスしてる。傷ついた? でも安心して。私はあなたの家庭を壊すつもりはない」

 と、言い放つ。

 NHKのドラマとは思えない身も蓋もない生々しい台詞に、「うわー、ここまで言うのか」と注目していたら、物語が一転。掴み合いになり階段から転げ落ちた2人は、なんと肉体と魂が入れ替わってしまうのだ!

 中学生の男女の肉体と魂が入れ替わってしまう大林宣彦監督の映画『転校生』へのオマージュであることは、尾美としのりが出演していることから明らかだが、不倫が題材の大人のドラマで普通やるか?

 入れ替わった2人は、不審に思われないようにお互いを演じて家へと戻る。やがて、薫となった友美の元には夫の洋介が現れ、友美と知らずにセックスをしてしまう……。

 脚本は岡田惠和。今年は『私という運命について』(WOWOW)と『続・最後から二番目の恋』(フジテレビ系)を執筆し、本作を合わせると連ドラはこれで3本目だ。チーフ演出は、この枠で最大のヒットとなった『セカンドバージン』で見事な映像美を展開し、多くの視聴者を魅了した黒崎博。本作でも徹底して作りこんだ見事な映像美は健在だが、黒崎がシリアスに演出すればするほど、『セカンドバージン』以降盛り上がっている不倫ドラマのパロディに見えてくるのだから面白い。

 不倫相手だと思って抱いたら、心は妻だった。というシチュエーションは、セックスレスだった妻の立場からすれば実に切なくもエロティックな場面だが、一歩引いた目で見れば、笑えるセックスコメディにも見える。そして、旦那の視点に立てばゾッとするようなホラーだ。 

 こういった相反する感情が同時に伝わってくるということは、そうそうあることではない。

 第2話以降は、入れ替わった2人がお互いに情報交換をしながら、とりあえず日常生活を送っていくのだが、男を取り合う正妻と愛人という関係よりも、親友としての関係の方が強く、口喧嘩もどこか楽しそうでユーモラスですらある。

 作中では高校時代の2人の姿が回想シーンで登場するが、まるで双子の姉妹のように見える。

 今後は有り得たかもしれない人生を、2人が体験することで、女性としての生き方を見つめ直す話となるのだろうか。

 エロティックで切なくも、どこか笑えて、どこか怖い。

 四拍子揃った不思議なドラマだ。

週刊朝日  2014年11月14日号