ドラマや舞台などで活躍している俳優の瑛太さん。今年出演する舞台では、実は役を引き受けたことを後悔したこともあったという。

 2009年から、だいたい1年に1本のペースで舞台に出演している。今年出演する「ロンサム・ウェスト」は、アイルランドを舞台に繰り広げられる会話劇。瑛太さんが演じるのは、毎日些細なことで大げんかを繰り返す兄弟の弟、ヴァレン役。兄役の堤真一さんとの、芝居での共演はこれが初めてになる。

「堤真一さんに対しては、ずっと俳優としての素晴らしさを感じながら、多大なる興味を持っていました。いつだったか、ある演出家の方と話をしていたときに、『兄弟役とかがいいんじゃない』という話になったこともあって。このお話をいただいたときは、すぐ『やりたい!』と思いました。……でも、稽古が始まってからは、『俺、何でこれをやるって言っちゃったんだろう』って後悔しましたけど(苦笑)」

 物語は、父親が亡くなり、2人の兄弟が残されたところから始まる。台詞の量も膨大だが、兄弟2人とも、ずっと“キレまくり”の状態で、救いが見えない話のように読めるのだが。

 
「でも、稽古を進めるうちに、実はこれ、かなりの喜劇なんじゃないかって思えてきました(笑)。僕らは稽古で、寓話の中にリアリティーを見つけ出していく作業をやっているんですけど、この兄弟の場合、困ったことに、相手にすぐ殺意を抱く。でもそれもまた、ある種の人間の可能性を示唆しているのかもしれない。結局、何が殺意のきっかけになるかなんてわからないんですよ。その辺に、人間の愚かさとか怖さ、面白みがあるような気がします」

 芝居の話をするときの彼は、いい意味で、張りつめた男気をまとう。次にどんな言葉を発するのか。次にどんな表情をするのか。次にどんな役を演じるのか。観る側が、次のアクションをかたずをのんで見守ってしまう希有な俳優である。

「芝居に関わっているときは、シンプルに、“楽しい”という感覚です。たとえば舞台の稽古って、一人でやったらつまらないし、一人で成立するものでもない。みんなで集まってやってみて、演出家の方から、『素晴らしい』とか『面白い』と言っていただいてはじめて楽しいなと思える。映像でもありますよ。本番で、『あ、(松田)龍平、そっち行くんだ』みたいなときに(笑)」

 一緒に仕事をする相手のことは信じるけれど、「何年も前から、自分のことはずっと疑ってます」という。

「たとえば、僕の出演した作品を観てくださった人から、『よかった』と言われたとしても、僕自身は、『このままでいいのかな』『もっとできることはないだろうか』とか、つい思っちゃいますね。毎回課題ばっかりですけど、そうやって課せられていることって、絶対に自分に必要なものなんですよ」

「だから」と、ひと呼吸置いて、「これからも、(俳優を)やっていきたいです」と彼は言った。とても落ち着いた声で。

週刊朝日  2014年4月25日号