私たちは普段の生活の中で、どのくらい物理学の視点でものごとを考えるだろうか? 知っていたとしても宇宙を構成する素粒子が17種類だということくらいではないか。

 著者は、超ひも理論や素粒子論を専門とする理論物理学者だ。その考え方は物事を抽象化し、現象が発生する理由を論理的に考察することだ。つまり極論をいえば、この世界のルールを解き明かしているともいえる。 

 本書が秀逸なのは、全く物理学に縁のない人でも、なるほどと膝を打ちながら読める点にある。たとえば洗濯物ハンガーの洗濯バサミが絡まっている時、どうすれば絡まりがとれるか等、内容は私たちの日常とかけ離れておらず、文章もユーモアにあふれ読みやすい。

 物理学者は全く違う視点で世の中を観ており、この思考を通じて、世界がまた広がったことを体感できる一冊だ。
(新井文月)

週刊朝日  2021年3月26日号