社会学者が現代日本の骨組みを「母と息子」の関係を通して分析した。有名な書籍や著者自身の育児体験などを引きながら、ユニークな論を展開する。

 日本女性は男社会の中で冷遇されてきた。打ち砕かれた活躍の夢は産後、愛息子に託される。しかし難しいのが、彼女たちが息子を庇護したくなってしまうところ。この重苦しい母子関係から誕生した「ふがいない息子」は、社会の閉塞感や女性差別の元凶だという。話題の事件から人気小説まで、さまざまな題材が鮮やかに説明される。

「卒母」など母を解放する言葉が、実は母の献身を前提としているとの指摘が鋭い。本来、母親業とは、卒業したくなるほど身を捧げなくてもいいものだ。著者は息子を持つ女性に「まずは自分を愛して」と呼びかける。母と息子のみならず、すべての人に向けた、軽やかな未来へ導く一冊だ。(内山菜生子)

週刊朝日  2021年1月22日号