コウケンテツ『本当はごはんを作るのが好きなのに、しんどくなった人たちへ』。30カ国以上を旅し、多数のレシピ本を出し、テレビや講演やユーチューブで活躍する料理研究家の初の書き下ろしエッセイである。

 料理研究家だもの、さぞや家庭でも……と思いきや全然逆。共働きで家事を分担しながら3人の子どもを育てていれば、飯にいちいち凝ってはいられない。

 毎日の炊事がしんどいのはなぜか。日本が和洋中にわたる「ワールドワイドハイスペック家庭料理」の国で、料理もたいがいワンオペで、栄養も品数もという見えざるプレッシャーがあるからだ、というのが本書の主張。つまり<毎日のごはんは「質素ごはん」で充分なんです>。

 手料理は愛情の証し? いやいや、<僕は「子どもの満腹感=親の愛情」だと思っています>。お腹がすいたと泣く子を無視したらダメだけど、外食でも惣菜でもレトルトでもフルーツやお菓子だけでも<子どもが満腹になれるなら、必ずしも手料理でなくてもよいのです>。

 かような心境にたどり着いた背景には自身の体験がある。アルデンテにこだわったのに、子どもたちはのびたパスタが好きだった。ばあばの家で食べたチ○ンラーメンに狂喜した。お花見に豪華なお弁当を用意したのに一番人気はコンビニのみかんゼリーだった。もしかしたら僕のレシピ本も読者を追い込んでいるのではないか……。

「ねばならない」の思い込みを捨てれば日々の炊事は楽になる。<使う食器の数が多すぎるんじゃ!/その結果、洗い物も多すぎるんじゃ!>と思ったので、お茶碗をやめ、おかずもご飯もカフェ飯風に一皿に盛ってみた。味付けの悩みは食卓に調味料を並べる<味付けはセルフサービス>で解決できた。<家はレストランではありません。ひと口目が最高の味である必要はまったくありません>

 一家に一人主婦がいた時代とはもう違うんです。飯の呪縛から逃れたいあなたにおすすめ。

週刊朝日  2021年1月15日号