日本学術会議の任命問題がマスコミで注目されていた10月下旬、渦中の人である宇野重規(東京大学社会科学研究所教授)が新しい本を出した。『民主主義とは何か』と題されたその本は、偶然とはいえ、騒動の背後にも見え隠れする民主主義の危機と向きあうために書かれていた。

 宇野は、タイトルどおりの命題に対して歴史的にアプローチを試みる。具体的には、民主主義(デモクラシー)の語源となった古代ギリシアにおける「誕生」、近代ヨーロッパへの「継承」、自由主義との「結合」、20世紀における「実現」の順に展開する。2500年以上もある民主主義の歴史が過不足なく分析され、各時代の実相を理解できるようになっていて感心する。その上で驚くのは、これほど長い歴史がありながら、ほとんどの期間において、この言葉が否定的に語られてきた事実だ。民主主義が、「参加と責任のシステム」として肯定的に扱われるようになったのは、この2世紀ほどのことらしい。

 私は、民主主義は当然の制度であり、大切にする理念として身近に感じてきた。しかし、歴史的に見れば、いつの時代も危機に晒されてきたようだ。その原因はいろいろあるが、史実を知って少し救われるのは、民主主義がなんとか生き残って現在も実体を保っている点だ。

<自由で平等な市民による参加と、政治的権力への厳しい責任追及>

 当事者として宇野が巻きこまれた問題も、前首相の国会における虚偽答弁問題も、私たちの民主主義を試す機会に違いない。「参加と責任のシステム」をいかに発展させるか──未来の日本人のためにも、私たちは傍観者ではいられない。

週刊朝日  2020年12月18日号