幻となった昭和15年の東京五輪と草創期のプロ野球が舞台のノンフィクション。

 プロ野球発足と時を同じくして、ベルリン五輪での野球競技の実施が決まり、さらに東京が五輪開催に名乗りをあげた。各球団による選手の争奪戦が始まり、選手たちは五輪出場かプロ野球かという選択を迫られていく。

 スカウトたちが選手の獲得に奔走し、様々な方法で獲得していく様子も面白味があるが、スカウトたちの苦労や悔しさ、喜びといった心の機微も伝わってくる。また、選手たちが家族や自分の夢などの中で揺れ動きながら、決断をしていく様子も事細かに描かれている。当時の写真や新聞記事も見所の一つだ。

 数多くの資料を発掘して丁寧に書き上げられており、プロ野球草創期の秘話やプロ野球の基礎となった人々の姿を知ることができる労作となっている。
(長谷部愛)

週刊朝日  2020年9月4日号