紫外線といえば、現代では「美白の敵」「皮膚がんの原因」などもっぱら忌避される対象だが、1920年代には、くる病を予防し、免疫力を高めるものとしてもてはやされ、「太陽灯」なる紫外線ランプまで商品化されていたという。本書は、この不可視の光線を有益とするか有害とするか、その言説が時代に応じて揺れ動いていくさまを見極めることで、近代以降の日本社会の一断面に焦点を当てる、異色の科学史=社会史である。

 紫外線に対するまなざしの変転を、当時の書籍や科学雑誌、保健体育の教科書や母子手帳など膨大な資料に当たって検証している。そこで提供されるのは、ジェンダーやエスニシティなどまで巻き込む、非常に射程の長い視点だ。「紫外線という不可視光線には、社会のある側面を可視化する力がある」との一文は至言。(平山瑞穂)

週刊朝日  2020年7月24日号