参加者全員が白シャツを着て右手を挙げてリーダーを称え、激しく床を踏み鳴らす。気後れしていた学生たちさえも、次第に「集団」の一体感に陶酔し、異端者バッシングに同調し始める……。

 本書は神戸市の大学で年1回、10年にわたり行われてきた特別授業「ファシズムの体験学習」のレポートだ。

 著者は歴史社会学専攻の大学教授。ナチスドイツが行った「ホロコースト(ユダヤ人虐殺)」はなぜ可能だったのか。ドイツ国民はヒトラーに欺かれた「被害者」だったのか。ファシズムへの傾倒は特定の時代の特異な現象ではなく、どんな社会や集団でも起こりうる出来事ではないか、と特別授業の経験をもとに指摘する。

 演劇ワークショップを思わせる授業を通じて、学生たちが変化していく予想外の“成果”に、戦慄する。(朝山実)

週刊朝日  2020年7月10日号