投資家である著者は、約20年前、激務で体調を崩し、酒をやめた。その時、社会は飲酒前提で回っており、下戸が圧倒的弱者であることを痛感したという。飲まないと入りづらい料理屋が大半だし、「酒を飲まないと腹を割って話せない」と言って憚らない人も少なくなかった。

 だが、今や成人の半分以上が、酒を飲めないか飲まないかの時代になった。果たして、社会は下戸を包摂するようになったのか。飲食店やメーカーは酒をいかに売るかではなく、下戸のニーズにも目を向けるべきではないかと説く。下戸のための経済圏「ゲコノミクス」の潜在市場は3千億円以上にもなると著者は推計する。

 下戸市場の解説にとどまらず、下戸をテーマに社会の多様性も訴える。視点を変える重要性を教えてくれる一冊だ。(栗下直也)

週刊朝日  2020年7月10日号