主婦の絵里子は、結婚から27年が経ち、穏やかな、しかしどこか虚ろな生活を送っていた。そんな中、夫の風俗通いや大学生の娘の反抗がきっかけで、これまでの生活にひびが入り始める。また、高校の同窓会で、同性のパートナーと暮らす詩織と再会したことをきっかけに、「妻」でも「母」でもない、自分の生き方を改めて考え始める。

 すでに亡くなった父親の不倫も含め、さまざまな不条理を相応に味わってきた絵里子には、いつしか「考えても答えの出ないことは、とりあえず考えるのを打ち切る」という姿勢が身についていた。そんな彼女が詩織をはじめ、家出の過程で出会うさまざまな人との交流を通して、少しずつ変化を見せていく。

 さりげないやり取りの中に個々人が歩んできた道のりが垣間見えるような、瑞々しい台詞が光を放つ。(若林良)

週刊朝日  2020年7月3日号