金正恩の重体説が流れたのは4月21日。さまざまな想像が頭の中を巡った。北朝鮮でクーデタ勃発。朝鮮戦争の再発。アメリカによる北朝鮮攻撃……等々。のちに情報はガセだったらしいとわかった。だが、北朝鮮に何かあれば、日本も無関係ではいられないのだと改めて痛感した。

 姜尚中『朝鮮半島と日本の未来』を開いた。韓国・北朝鮮と日本、そして中国、アメリカ、ロシア、各国間の歴史と現状、これからの展望を簡潔に述べた本である。

 この本のポイントは二つある。1点目は、現在の朝鮮半島の状況は朝鮮戦争以来の歴史と連続していること。2点目は南北朝鮮の分断が日本を含めて東アジア全域の不安定化をもたらしていること。つまり、歴史を振り返り目の前の現実を冷静に見つめることから始めようというのだ。

 東欧共産圏が崩壊したように北朝鮮も自滅する、と考える人が日本には多かった。だが、冷戦が終わっても、金日成どころか金正日が死んでも、北朝鮮は潰れなかった。これからも存続する可能性が高い。だから東アジアの平和のためには、北朝鮮消滅ではなく、南北朝鮮の統一を推し進めていくしかない。

 そこで日本が南北の橋渡しをできればいいが、日本と韓国の関係はいま最悪だ。たとえば元徴用工への賠償問題。根本原因は1965年に結ばれた日韓基本条約の曖昧さにある。どちらにも都合よくとれるのだ。こうした問題をひとつひとつ冷静に検討し、互いに譲歩しながら解決して、関係を改善するしかない。

 南北の統一には長い時間がかかるだろうと姜はいう。でも、きっと実現できる。

週刊朝日  2020年6月19日号