古代ローマ貴族が適切な奴隷管理法を微に入り細を穿って解説している、という体裁の本。奴隷を所有し、使役するのが当たり前であった時代の価値観に基づいて書かれているだけに、一流のブラックユーモアとしても読める。

 ただ、「奴隷は適度に褒めたほうがよく働く」「見せしめとして罰は必要だが、過度な罰は禁物」といったあたりには、決して安い買い物ではなかった「資産」としての奴隷をいかに最大限活用するかという視点が窺え、そこには時代を超越した普遍性がある。いわゆる人権意識が稀薄であった中でも、それなりの「公正さ」を目指して法が機能していたという事実も興味深い。

 現代社会にも、ブラック企業、技能実習生の酷使などを通じて事実上の「奴隷制」が残存している。決してひとごとではない。(平山瑞穂)

週刊朝日  2020年5月22日号