臨月まであと2週間で赤ちゃんが死亡するという体験を振り返ったノンフィクションエッセイ。当時を俯瞰した漫画など読みやすい工夫が施されている。不安と悲嘆の最中に、こういう本があればよかったとの思いからだ。

 産院での「妊婦教室」を回想する場面。「心配しなくても、無事に産まれますよ。でも、」と医師が「10年に一度」の悲しいケースもあると語るのを、妊婦さんたちと聞いている。その場面を描いた挿絵はほのぼのとしたもので、<この中に10年目の人が…(それは私です)>との文字が書かれ、ソファの端に座る著者が矢印で示されている。

 体験から10年余りで出版を決めた。赤ちゃんを「小夏」と命名したことや葬儀の準備に伴って揺れ動く気持ち、新たな出産への思いなどが綴られ、人生の節目を鮮やかに描いている。(朝山実)

週刊朝日  2020年4月17日号