新型コロナウイルスの流行で在庫が減ったのはマスクだけではない。感染症関係の書籍にも注目が集まり、書店で在庫切れ(増刷待ち?)になりつつある本も出てきた。石弘之『感染症の世界史』(親本2014年刊)もそんな一冊。

 人類の歴史は感染症との戦いの歴史だったという話から本書ははじまる。感染症の拡大は、文明の発達と不可分だ。農業や牧畜の発明によって定住化が進み過密な集落が発達したこと。熱帯林などの開発で人と野生動物の境界が曖昧になったこと。交通機関の発達で病原体が遠距離を短時間で移動するようになったこと。いずれも感染症の拡大に寄与した。
 人に病気を起こす病原体は2001年現在ざっと1400種。マラリアは紀元前1万~前8千年ごろからあったが、都市化の進行にともなって世界的に大流行する感染症が出現する。13世紀のハンセン病、14世紀のペスト、16世紀の梅毒、17~18世紀の天然痘、19世紀のコレラと結核、そして20~21世紀のエイズとインフルエンザ。

 読みながら、感染症について私たちはこれまで何も知らなかったのだ、と思い知らされる。
 日本も当然、例外ではない。結核は戦前の日本では国民病とされるほどだったし、1918年と19年、2度にわたって「スペインかぜ」が世界的に流行した際には合計2300万人以上が感染し、死者は合計38万6千人に達した。第2次大戦中、東南アジア戦線ではマラリアが流行し、日本軍はルソン島で5万人以上、インパール作戦で4万人、ガダルカナルで1万5千人がマラリアで死亡した。

<感染症の流行も「自然災害」である>という一文が印象的だ。<感染症の流行と大地震はよく似ている。周期的に発生することはわかっていても、いつどこが狙われるかわからない>。しかも<すべての災害のなかで、感染症はもっとも人類を殺してきた>のだ。
 人口の集中と高齢化は感染症のまたとない温床となる。全体に脅しの強い本だけど、学ぶは防御の第一歩。新型コロナが突然の脅威ではないと知るだけでも有効。

週刊朝日  2020年3月20日号